ロンドン高層住宅火災で明らかに イギリスが抱える「貧富の格差」
「二都物語」
改修工事中に同タワーの住民と緊密に連携していた地域のまとめ役、ピルグリム・タッカーさんは、今回の火災は、長年の間コミュニティの一部を丸ごと無視したことによる悲劇的な結末だと考えている。
「この公営住宅の住人は、自分たちが無視されていることを知っている」と、彼女は衝撃を隠せない様子で語った。「もし行政がするべき仕事をしていたなら、こんなことは起きなかった」
防災上の懸念を住人が指摘したにもかかわらず聞き入れられなかったとタッカー氏らが声を上げるなか、大惨事の余波は、より大きな政治の世界にも広がりつつある。
先週の総選挙で、財政規律の重視や、減税、ビジネス環境の整備を掲げた与党保守党は、公共事業に対する支出拡大を重視する野党労働党に対し議席を失い、過半数を確保できなかった。
グレンフェル・タワーのあるケンジントンの選挙区では、史上初めて労働党の候補者が当選を果たし、驚きを持って受け止められた。
当選した労働党のエマ・デントコード議員は新聞のインタビューで、安全性を軽視したとして行政当局を批判し、悲劇は防げたはずだと指摘するなど、火災を機に素早い反応を見せた。
メイ首相は15日、グレンフェル・タワーを訪問したが、消防士と会話する一方で住民とは言葉を交わさなかったと批判を浴びた。
対照的に、近隣の教会を訪問して住民やボランティアに面会した労働党のコービン党首は、「来てくれてありがとう」と周囲から声がかかるなど歓迎された。
「ケンジントンが『二都物語』であることは、避けられない事実だ」と、コービン党首は記者団に述べた。「ケンジントンの南側は極めて裕福で、全国で最も高級な地区だ。この火事が起きた地区は、国内でも最貧の部類だと思う」
「ある種の人々」
グレンフェルがある一角のすぐ外側は、多様な層が住むノッティング・デールと呼ばれる区域だ。味気のない1970年代築の公共住宅の周りには、富豪とまではいかないものの、裕福な人々が住む手入れの行き届いた住宅が並ぶきれいな通りがある。富豪たちは、数分は離れたホランド・パークと呼ばれる地区に住んでいる。
ノッティング・デールでは、地元住民の怒りにもかかわらず、火災によってコミュニティの異なる層の人々が団結した。タワーから脱出した人々や、現場近くの自宅から避難を余儀なくされた人々のために、より裕福な住民の多くが住居を開放したのだ。