最新記事

イラク

ISISから奪還間近のモスル、脱出図った住民231人殺害

2017年6月9日(金)16時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

戦闘に巻き込まれ負傷しながら赤ん坊を連れて逃げる Alaa Al-Marjani/REUTERS

<窮地に追い込まれ、ISISがますます残酷さを増している。逃げ出す住民を狙う卑劣極まりない行為>

陥落間近とされているテロ組織ISIS(自称イスラム国)最後のイラク拠点、モスル西部で子供を含む住民を標的にした殺戮が増えていると国連が警告した。

シリア政府軍はモスルの一部を奪還したものの、モスル西部にはまだ住民が人間の盾として捕らわれている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によれば、5月26日からの1週間で少なくとも231人がISISに殺された。

殺害された住民はアル=シファ地区から脱出を図ったところを見つかった。大規模な殺戮は5月26日(27人)、6月1日(163人)、4日(41人)と立て続けに起こり、遺体は数日間路上に放置されたままだった。

5月26日の死者には子供が5人含まれる。ゼイド・ラアド・アルフセイン国連人権高等弁務官は「家族と一緒に逃げようとした子供が撃たれた。卑劣極まりない行為に言葉もない」と述べた。

(荒れ果てたモスル西部から脱出する住民)


モスル西部の旧市街には依然、20万人の住民が残されているとされる。ニューヨーク・タイムズによれば、イラク軍はこれまで戦闘と爆撃に巻き込まれないよう家の中に留まるよう住民に指示していたが、最近は脱出を促す小冊子を落としているという。

【参考記事】モスル西部奪回作戦、イラク軍は地獄の市街戦へ
【参考記事】モスル奪還作戦、死体安置所からあふれ返る死体

有志連合にも殺されている

住民を殺すのは、ISISだけでない。OHCHRは、米軍主導の有志連合が5月31日に実施した空爆で、モスルのザンジリ―地区に住む50~80人が死亡したと報告した。

モスル奪還作戦は昨年10月に始まり、旧市街を含む北東西部を残すのみだった。BBCによれば、作戦開始からこれまでにモスルを脱出した住民は58万人に達する。

(先週、西部モスルで有志連合が実施した爆撃)


5月中の作戦完了を見込むというイラク陸軍参謀総長のコメントが報じられ、陥落は時間の問題だと思われていたが、ここ数カ月で窮地に立たされたISISは自爆に狙撃と、なりふり構わない攻撃を増やしている。

OHCHRのラビナ・シャムダサニ報道官は、「(ISISは)イラク政府軍の進撃に圧倒され必死に抵抗している。これは逃げようとする住民が危険にさらされる可能性を高める」と指摘。有志連合とイラク政府軍へ、住民が多く残る地区の空爆を止めるよう求めた。

【参考記事】ISISの終わりが見えた
【参考記事】モスル空爆で多数の民間人が殺された責任は誰にある?

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍、ポクロフスクの一部を支配 一部からは

ビジネス

インタビュー:日銀利上げ、円安とインフレの悪循環回

ビジネス

JPモルガン、26年通期経費が1050億ドルに増加

ワールド

ゼレンスキー氏、大統領選実施の用意表明 安全確保な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中