最新記事

中国

中国「一帯一路」国際会議が閉幕、青空に立ち込める暗雲

2017年5月19日(金)17時56分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

これだけ聞けばいい話のように思えるが、そもそも論で考えてみれば、なぜ途上国のインフラ建設はこれまで進まなかったのだろうか。金がないから、ではない。世界的に金余りの状況が続くなか、マネーは有効な投資先を探している。新興国のインフラ建設が有効な投資先ならば、中国が旗振り役とならなくても金は回っていたはずだ。

問題は、インフラはあるにこしたことはないが、投資に見合うだけの収益を上げられるのか、資金の返済は可能なのか、環境や人権といった問題をクリアできるのか、といった点。これらがネックになって投資が進まなかったのだ。

【参考記事】貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来

国内で行き詰まりを見せた成長モデルの海外展開

そうした視点で見ると、フィナンシャル・タイムズ中国語版の5月12日付け記事がきわめて示唆的だ。

中国の対「一帯一路」沿線国向け投資は、2016年になり前年比マイナス2%と減少に転じた。2017年第1四半期は前年同期比マイナス18%と減少幅はさらに拡大している。中国は途上国向けに貸し付ける巨大な種銭を持っているが、問題は有望な投資案件を見つけられるかどうか、その点では苦戦が続いている。

今回の一帯一路国際会議で、習近平総書記はシルクロード基金に1000億元(約1兆6100億円)を増資すると表明したが、種銭が増えるばかりでは問題は解決しない。また協調して融資を行う中国の金融機関にもリスクの増大に対する懸念が広がっている。

【参考記事】「一帯一路」支える中国の低利融資 リスク助長の懸念も

政府の旗振りによって便益が少ない投資案件に対する投資が進めば、どのような結果を招くのか。その結果を先取りしているのが中国国内だ。便益の高いインフラ建設が終わった後も、建設ラッシュが続き、その結果として不必要なインフラと債務が次々と積み重なっていく。

結局、一帯一路とは、中国国内で行き詰まりを見せた成長モデルを海外に展開させることで延命しているだけではないかとのシニカルな意見もある。建設会社や重機メーカーを始めとする一帯一路関連企業にとってはチャンスでも、最終的に投資が返ってこなければ「労民傷財」で終わってしまうと言うわけだ。

「一帯一路」がユーラシアに青空をもたらすのか、はたまた「労民傷財」で終わるのか。国際会議は成功裏に終わったが、なお山のような課題が残されている。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。
リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中