最新記事

中朝関係

北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させた理由

2017年5月9日(火)21時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

もう少し合理性に寄せた解釈が「戦略的緩衝地域」論だ。朝鮮半島が統一されれば米帝は北京をすぐ間近にとらえるところにまで軍事力を配置できるではないか。北朝鮮の存在は一種の緩衝地帯であり、中国の安全保障にとって不可欠な存在という理屈だ。

これまた思わずうなずきたくなる理屈だが、現実はというと(1)北朝鮮は北京を射程に収める核ミサイルを保有している、(2)北朝鮮は地域の混乱要因であり、中国は戦争に巻き込まれかねない、という二重の意味で中国にとってマイナスだ。緩衝地帯どころか、中国の身を危うくしかねない火薬庫というわけだ。

専門家は中国外交の失敗を指摘

先日、人民解放軍の研究では世界ナンバーワンの識者として知られる軍事評論家・平可夫氏とお会いする機会があったのだが、同氏は「(中国の狙いについてはさまざまな意見があるが)外交は目的が達成されたかどうかで判断するべきだ。核ミサイルの開発を許し地域の緊張を高めたという意味で、中国の外交は明らかに失敗している」と率直に指摘していた。

同様の指摘をしているのが、米シートン・ホール大学ジョン・C・ホワイトヘッド外交国際関係大学院のワン・ジョン准教授だ。2013年、米ニューヨーク・タイムズ紙のコラム「Does China Have a Foreign Policy?」(中国に外交政策はあるのか?)において次のように語っている。


一国の外交政策を判断するには言葉だけではなく、行動もみる必要がある。中国の政策と行動を子細に研究したならば、中国の外交政策は矛盾に満ちたものであり、さらにはきわめて薄弱であることが理解できる。島嶼領有権争いから北朝鮮問題、さらには気候変動まで、中国は多くの問題において明確で成熟した政策を持っていない。

平可夫氏、ワン・ジョン氏ともに中国の対北朝鮮外交の失敗を指摘しているわけだ。これを前提として考えると、今度はなぜ中国がこれまで失敗を甘受してきたのか、そして今になってついに外交方針を変化させようとしている理由は何かが、考えるべきポイントとなる。

なぜ失敗を甘受してきたのか。その答えは、「北朝鮮問題は中国にとって重要課題ではなかったから」だ。中国は巨大な官僚制国家である。一度決まった方針は粛々と実行される一方で、方針を変更するには膨大な努力が必要となる。

一応、社会主義陣営の一員であり仲間であった北朝鮮に対する外交方針を転換し、実効的な圧力をかけるためには相当なリソースが必要だ。中国には他に優先すべき政策課題があり、北朝鮮問題に充てる政治的なリソースが不足していたため、「北朝鮮を庇護する」という従来方針が延々と延長されてきた......というのが実情ではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 6
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 10
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中