最新記事
人種差別

ユナイテッド機の引きずり出し事件に中国人激怒、の深い理由

2017年4月12日(水)16時40分
ジェームズ・パルマー

アメリカで暮らす年配の中国人のあいだには、アファーマティブアクション(白人に対して黒人などのマイノリティーを優遇する差別是正措置)によって、自分たちの子どもが大学に入学できないという強い憤りがある。そうした憤りには、アフリカ人やアフリカ系アメリカ人に対する軽蔑も混ざっている。彼らは文化的に遅れていて、貧困もみずから招いたものだとする見方があるのだ。この世界観からすると、間違っているのは人種差別ではない。差別の階層のなかで、中国人を少なくとも白人と同等と認めるべきだ、と言っているわけだ。

こうした考え方は、19世紀後半の中国(清時代末期)の改革家でユートピア哲学者の康有為にさかのぼる。康は「白色人種と黄色人種」が手を組み、黒や茶色の人種を圧倒して根絶するべきだと呼びかけた。

そうした考え方は、ユナイテッド航空のケースでは、「黒人だったら、絶対にあんなことはされなかったはず!」という中国ソーシャルメディアの典型的なコメントに見てとれる。

その理屈はこうだ――アメリカ人は人種問題に敏感だが、それは黒人に対してだけであり、中国人に対してではない。したがってアメリカの警察は、無実の黒人を叩きのめすような無謀なことはしないはずであり、標的になるのは無力な中国人だけだ、と。

(この理屈には当然、疑問が生じるだろう。実際には白人警官が黒人を殺害する事件が多いからだ。だがそれは彼らには「自業自得」に見えるらしい)。

親米と反米の闘争

もっとも今回の動画が圧倒的な広がりを見せた理由は人種問題だけではない。ここ10年ほどで、中国のインターネットは親米と反米の「内戦」に悩まされている。そして徹底的な検閲の結果、反米が力を増している。親米派に言わせれば、アメリカはあらゆる善きものの祖国だ。自由も、きれいな空気も、社会福祉も、ポルノを見る自由もある。

反米側に言わせれば、アメリカは偽善的で、人種対立と政争に引き裂かれ、犯罪が多発し、そして何よりも、物の値段があまりにも高い国だ。

どちらのケースでも、しばしば真の論点は、中国とアメリカのシステムを比べた場合にどちらが優っているかにある。そうしたコメントを数千件も読むと、たとえばベルギーなどの、米中どちらでもない国の美徳を褒め称えたくなるのが常だ。

かくしてくだんの動画はイデオロギー的なパワーを帯びることになった。恣意的な暴力の行使は、中国では珍しいことではない。とりわけ農村部や貧困層のあいだでは顕著だ。ただし、警察そのものが主たる扇動者になるケースはめったにない。むしろ、日常的な暴行の矛先を決めるのは、「城管」と呼ばれる、街路での取り締まりを任務とする都市管理部隊だ。彼らの仕事は恒常的に、小規模な店舗や露天商との諍いをひき起こす。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸

ワールド

中国で一人っ子政策の責任者が死去、ネットで批判の投

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中