最新記事

テロ組織

ISISの終わりが見えた

2017年4月19日(水)17時20分
トム・オコーナー

だがシリアでも、ISISはさまざまな攻撃にさらされている。国内の広い地域をISISと反政府勢力に奪われたシリア政府は、その後、ロシア戦闘機の援護を受けて一連の奇襲作戦を行い、シリアのほぼすべての人口密集地で支配権を取り戻した。3月には、シリア政府軍が歴史都市パルミラの再奪還に成功した。

シリアの中部と東部では、いまだ広い地域をISISが支配しているものの、支配地域は人口が少なく、大部分が荒地だ。そのため、物流や市場とのつながりが不可欠で、それなしでは維持するのが難しい。

最近では、アメリカが支援する「シリア民主軍」が、シリア北部での対ISIS戦で勢いをつけている。シリア民主軍はクルド人中心の組織だが、アラブ人や少数民族も加わっている。地元のクルド系メディアが4月17日に報じたところによれば、シリア民主軍による最近の攻撃で、ラッカ北の集落にある多くの村が奪還されたという。

この軍事作戦と同時に、ロシアの支援するシリア軍が、90マイル(約145キロ)ほど離れたデリゾールで包囲されていた部隊の解放を試みている。シリア軍とその同盟軍は今年3月、南からのデリゾールへの進軍を開始した。4月17日には、ロシアまたはシリアの戦闘機から、デリゾールのISIS拠点に対して14回以上の空爆が行われたと、地元報道機関の「デリゾール24」が伝えている。

ラッカ陥落なら教義も崩壊

この2つの前線からの攻撃は、ISISにとって致命的なものになるかもしれない。ISISは、少なくなる一方である物資の大部分を割いて、この戦闘を乗り切ろうとする可能性が高い。だが、数で現地の地上軍に劣るだけでなく、多国籍軍による空爆にも圧倒されるだろう。ISISがカリフ制国家の首都と宣言したラッカと、シリアの油田があるデリゾールを失えば、ISの未来はきわめて不確かなものになるはずだ。

ラッカの陥落は、ISISが築いてきた「中央政府」が崩壊するという以上の壊滅的な打撃を与えるだろう。というのも、ラッカを失えば、ISISのイデオロギーの中核的な教義となってきた「黙示録的な約束」が輝きを失うことになるからだ。

ISISは、聖戦士たちがラッカで「ローマの軍隊」、すなわち西洋の軍隊と対決し、勝利を収め、それをきっかけにして世界の終末が訪れると説いている。したがって、ラッカで敗北すれば、ISISの信用が著しく低下する可能性がある。

ロンドンを拠点とする安全保障アナリスト、フィラス・アビ・アリは昨年、モスルでイラク軍中心の対ISIS作戦が始まる直前、「BBCワールドサービス」に対し、「2017年後半」までにISISが敗北するとの予測を語った。この予測が現実のものになる可能性がますます高まっている。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中