最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

外国人労働者に矛先を向ける「金満国家」サウジアラビアの経済苦境

2017年3月16日(木)18時30分
山田敏弘(ジャーナリスト)

そんな背景から、サウジアラビアはムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を中心に、昨年4月から「ビジョン2030」を掲げ、経済の原油依存を減らし、民間部門の役割を高め、産業やサービス部門の競争力を高めることを目指している。アジア行脚も、サウジの経済改革という目的を達成するためのものだ。

また緊縮財政で公共事業を減らすなどの対策にも乗り出しているが、経済の見通しは明るくない。

外国人労働者に課税

筆者にはサウジアラビアのメディア企業で働くパキスタン人の知人がいる。最近、その知人とのやりとりで、サウジ国内の窮状について聞かされたばかりだ。サウジでは外国人労働者をめぐる状況の悪化が深刻になりつつあり、サウジ国外で仕事を探そうとしていると嘆いていた。

と言うのも、サウジ政府は経済停滞への対策として外国人労働者に矛先を向け始めていて、今年7月から外国人を標的にした課税を導入する予定でいる。サウジでは民間労働力の8割程を外国人が担っているが、彼らから金を徴収して財源とするだけでなく、政府としては国民の失業率が高まる中で国民を仕事に就かせたい思惑もある。

【参考記事】ソフトバンクと提携したサウジ副皇太子が握る王国の未来

政府はまず外国人労働者への100リアル(約27米ドル)課税を開始し、この課税措置によって10億リアルを獲得することになるという。また今後は企業に外国人が占める割合などによって外国人に対する課税額がどんどん増えていくことになる。

また政府の財政が逼迫していることで、企業に対する国の債務の未払いなども問題になっている。建築業では政府からの支払いが滞っていて、例えば建築最大手サウジ・ビンラディン・グループは、途上国からの労働者をすでに7万人も解雇している。今後、課税も行われれば、外国からの駐在員や労働者などの解雇が増えると見られている。

前述の知人は、「昼間は暑くて仕事にならないような国で、景気が悪くて外国人への税金を増やすというなら、もうこの国に残る理由はない」と嘆く。すでに知人の暮らすサウジ第2の都市ジッダでも、街中で賃貸住居の空き部屋が目立つようになっているという。

サルマン国王の1500人もの随行員が、訪問先の国々で何をするのかはよくわからないが、まずそのコスト感覚を見直すところから始めた方がいいだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、10月は前月比・前年比とも伸び
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中