高松も東京も......まちの可能性は広がっていく
人の動きをデザインして外部との交流を図る
人が大勢いることは企業にとっても資産ですが、地域にとっても資産なんです。従業員が日々仕事だけに終始するのではなく、何かしらの形で地域との関わり方ができるような仕立てがあるといいですね。そういう意味で、人の動きをどうデザインして、外部とどのように交流させるかという点は工夫の余地があると思います。
もう1つ、空間の使い方もいろいろ考えられるでしょう。例えば長野県諏訪市の「片倉館」** は、国指定重要文化財の西洋建築と日帰り温泉が楽しめる施設です。ここはかつて製糸業で栄えた片倉財閥が、地域住民に厚生と社交の場を供するために建設したものです。今では遠方からも見学者が訪れるなど諏訪の名所の1つとなりました。
食堂や商店だけでなく、建物自体が空間の価値を作ることも可能であること、また民間と地域が協同することでシビックプライドを高めていることを示す事例だと思います。
公共空間を自分なりに使いこなしていく
いろいろお話ししてきましたけど、では自分はシビックプライドをもって何かやっているのか、というところで、最後に自分の活動に触れたいと思います。
私は「東京ピクニッククラブ」*** というアーティストやデザイナーのグループを共同主宰しています。国内外のいろいろな都市で公共空間の創造的な利活用を促すプロジェクトを行っていますが、自分たち自身も東京のあちこちでピクニックをしています。これは、東京の公共空間を私たち住民にとってもっと身近で使いこなせる場所にするための活動です。公園だけでなく、例えば公開空地などでもピクニックをしてみることで、その場所の魅力を見出したり、逆に不自由さに気付いたりします。
こういう活動を通して公共空間とは何か、誰のために、どんな目的のためにあるのかということを問うていきたいですね。やってることはピクニックなんですけどね(笑)。
1人ひとりがまちの空間を自分なりに使いこなしていく姿勢を持つと、自ずとまちは変わっていきます。かといって、どこでも身勝手に使えるかというとそれも違う。市民の権利と責任は表裏一体であり、何かしたい時には自分でも責任を持たなければいけません。シビックプライドを考えることはパブリックのあり方を考えることでもあるのだと思います。
WEB限定コンテンツ
(2016.6.28 千葉県野田市の東京理科大学 野田キャンパスにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri
* 仏生山温泉のウェブサイト。
http://busshozan.com/
** 片倉館のウェブサイト。
http://www.katakurakan.or.jp/
*** 東京ピクニッククラブのウェブサイト。都市居住者の基本的権利として「ピクニック・ライト」を主張し,社交の場としての都市の緑地や共有スペースの利用可能性を追求する。
http://www.picnicclub.org
東京理科大学 伊藤香織・都市計画研究室では、デザインを通して都市のあり方を提案。自分たち自身が積極的にまちに出て都市の可能性を引き出していく。
シビックプライド研究会ではシビックプライドとコミュニケーション・デザインについて国内外の事例を研究するとともに、日本の自治体などへの提案や調査も行っている。
http://www.rs.noda.tus.ac.jp/~i-lab/
伊藤香織(いとう・かおり)
1971年東京都生まれ。東京大学大学院修了、博士(工学)。東京大学空間情報科学研究センター助手などを経て、東京理科大学教授。専門は、都市空間デザイン/空間情報科学。著書に『シビックプライド――都市のコミュニケーションをデザインする』『シビックプライド2【国内編】――都市と市民のかかわりをデザインする』(監修、宣伝会議)、『まち建築:まちを生かす36のモノづくりコトづくり』(共著、彰国社)など。まちの活性化・都市デザイン競技で国土交通大臣賞(2012年)などを受賞。2002年より東京ピクニッククラブを共同主宰し、公共空間がもっと創造的に使いこなされるためのプロジェクトを国内外の都市で開催。2014年にグッドデザイン賞受賞。