最新記事

インタビュー

日本の地域再生を促すシビックプライドとは何か

2017年2月23日(木)14時10分
WORKSIGHT

都心と郊外の狭間にあるエッジエリアの可能性

もう1つ、二子玉川エリアのプロジェクトでは、私が企画監修をお手伝いしている「EDGE TOKYO DEEPEN」*** があります。東京の境界(エッジ)である二子玉川で「先端/周縁」を意識しつつ、ビジネス、デザイン、アート、政策制度といったテーマで、それぞれの専門家を招いてトークセッションやパフォーマンスを行うというものです。

都心でもなく郊外でも地方都市でもない、都心と郊外の狭間にあるようなエリアで先端的なことが起こりつつあるのではないか。それを周縁や先端を示すエッジという言葉で表しています。サンフランシスコのベイエリア、シリコンバレーなどもそうかもしれません。そういうエリアである二子玉川の新しい可能性を探り、次世代都市スタイルのあり方を提示していきます。

シビックプライドの文脈でいえば、都心は人が大勢集まって刺激があるけれども、経済的な原理が強く働いているので、自分が手掛けたことの効果が見えにくいという難点があります。一方、地方都市の活動では自分が当事者になれるけれども、やり方やメンバーが固定化しやすく、新しい可能性を見出しにくい面があります。

働くこと、住むこと、遊ぶことの境目がなくなる未来

その点、エッジエリアはそのどちらでもないやり方が探れるのではないでしょうか。ある程度の規模がありつつ職住近接も実現できるし、二子玉川では、楽天のような大企業が進出していると思えばコ・ワーキングスペースがあって個人のクリエイターと気軽にコミュニケートすることもできます。

カタリストBAで仕事をする方に聞いた話ですが、夕方になると学校帰りの子どもたちが立ち寄ることがあるそうです。だから、同僚も家族の顔を知っている。仕事と家庭を明確に切り分ける従来のスタイルと違いますよね。

これはエッジらしい新しい生活のひとつ。働くこと、住むこと、遊ぶことの境目がなくなってくる未来を感じさせますし、そこには新たな価値を生む新たな形の仕事が立ち現われてくることと思います。

WEB限定コンテンツ
(2016.6.28 千葉県野田市の東京理科大学 野田キャンパスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

※インタビュー後編:高松も東京も......まちの可能性は広がっていく

* 官公庁や地方公共団体など、ウェブサイト上でシビックプライドへの言及がある公的機関も多い。

** 2012年4月、横浜市と東急電鉄は既存の郊外住宅地を再構築する「次世代郊外まちづくり」の取り組みを共同で推進する包括協定を締結。東急田園都市線沿線の郊外住宅地を対象に、住民や地域団体と連携して次世代型のまちづくりを進めている。
http://jisedaikogai.jp/
住民創発プロジェクトに関するウェブサイト。
http://jisedaikogai.jp/sohatsu/

*** EDGE TOKYO
二子玉川ライズ・オフィス内にあるクリエイティブオフィス「カタリストBA」が主催するライブ・トークセッションシリーズ。
2012-2014年の第1期に続く、2016-2017年の第2期(EDGE TOKYO DEEPEN)では「『先端』東京のオルタナティブ、『周縁』二子玉川で実行する」をテーマに、パブリックデザイン、シビックプライド、クリエイティブコミュニティという3つの軸で次世代都市スタイルを探求。伊藤氏はEDGE TOKYO DEEPENの企画監修を馬場正尊氏とともに手掛けている。
http://catalyst-ba.com/archives/tag/edge-tokyo
カタリストBAに関するワークサイトの記事はこちら
「二子玉川という地域に根ざしたバウンダリーオフィスの実験場」
http://www.worksight.jp/issues/57.html

ws_itokaori170223-site.jpg
東京理科大学 伊藤香織・都市計画研究室では、デザインを通して都市のあり方を提案。自分たち自身が積極的にまちに出て都市の可能性を引き出していく。
シビックプライド研究会ではシビックプライドとコミュニケーション・デザインについて国内外の事例を研究するとともに、日本の自治体などへの提案や調査も行っている。
http://www.rs.noda.tus.ac.jp/~i-lab/




伊藤氏が監修を務めた『シビックプライド――都市のコミュニケーションをデザインする』(上)と『シビックプライド2 【国内編】 ――都市と市民のかかわりをデザインする』では、事例を元にシビックプライド醸成の方法を探っている。(いずれも宣伝会議刊)

ws_itokaori170223-portrait.jpg伊藤香織(いとう・かおり)
1971年東京都生まれ。東京大学大学院修了、博士(工学)。東京大学空間情報科学研究センター助手などを経て、東京理科大学教授。専門は、都市空間デザイン/空間情報科学。著書に『シビックプライド――都市のコミュニケーションをデザインする』『シビックプライド2【国内編】――都市と市民のかかわりをデザインする』(監修、宣伝会議)、『まち建築:まちを生かす36のモノづくりコトづくり』(共著、彰国社)など。まちの活性化・都市デザイン競技で国土交通大臣賞(2012年)などを受賞。2002年より東京ピクニッククラブを共同主宰し、公共空間がもっと創造的に使いこなされるためのプロジェクトを国内外の都市で開催。2014年にグッドデザイン賞受賞。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中