難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを
「アメリカで一生生活したいとは思わない。ここは自分の国ではない。いつかはコンゴに帰りたい」
自分の父親が殺害されたせいで、故郷への帰国に恐怖を抱きながらも、そしてコンゴの現政権に不満を持ちながらも、やはりhome(故郷)はhomeなのだ。彼にとってアメリカでの定住は、あくまでも一時的なもう一つの解決策(alternative solution)にしかすぎない。
これはあくまでもこのコンゴ難民個人の意見であり、当然、難民全員の意見を代表していない。しかし私がこれまで会ってきた難民の多くは、母国がどんなに混乱状態にあってもノスタルジーを抱き、母国に帰りたいと嘆いていた。
そう、母国が安定すれば、帰還が最善の解決策なのだ。
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以上のことから、我々は上記の「難民の受け入れ」ではなく、「難民発生の予防」にもっと努力を尽くさなければならない。難民はそもそも政治的な理由からつくられた人工的な存在である。なので、各政府をはじめ、我々市民一人一人に難民問題に関する理解を十分に持ち、強い政治的意思さえあれば、難民数を減らしたり、難民を無くすことはできるはずだ。
そして留意しなければならないのは、この難民の受け入れや入国禁止は単にアメリカの問題だけではないことだ。日本はアメリカに「戦争協力」ができることによって、今後、難民発生に直接加担し、その「補償」としての「難民受け入れ」も求められる可能性が高くなるからである。それを回避するために我々は何をすべきなのか、議論を深めなければならい。
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[執[筆者]
米川正子
立教大学特任准教授、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表。
国連ボランティアで活動後、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、スーダン、コンゴ共和国、ジュネーブ本部などで勤務。コンゴ民主共和国のゴマ事務所長を歴任。宇都宮大学特任准教授を経て、2012 年11 月から現職。専門分野は紛争と平和、人道支援、難民。著書に『あやつられる難民: 政府、国連、NGOのはざまで』 (ちくま新書 、2017年)、 『世界最悪の紛争「コンゴ」~平和以外に何でもある国』(創成社、2010 年)など。