最新記事

国際政治

難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを

2017年2月6日(月)16時00分
米川正子(立教大学特任准教授、元UNHCR職員)

「アメリカで一生生活したいとは思わない。ここは自分の国ではない。いつかはコンゴに帰りたい」
自分の父親が殺害されたせいで、故郷への帰国に恐怖を抱きながらも、そしてコンゴの現政権に不満を持ちながらも、やはりhome(故郷)はhomeなのだ。彼にとってアメリカでの定住は、あくまでも一時的なもう一つの解決策(alternative solution)にしかすぎない。

これはあくまでもこのコンゴ難民個人の意見であり、当然、難民全員の意見を代表していない。しかし私がこれまで会ってきた難民の多くは、母国がどんなに混乱状態にあってもノスタルジーを抱き、母国に帰りたいと嘆いていた。

そう、母国が安定すれば、帰還が最善の解決策なのだ。

                ***

以上のことから、我々は上記の「難民の受け入れ」ではなく、「難民発生の予防」にもっと努力を尽くさなければならない。難民はそもそも政治的な理由からつくられた人工的な存在である。なので、各政府をはじめ、我々市民一人一人に難民問題に関する理解を十分に持ち、強い政治的意思さえあれば、難民数を減らしたり、難民を無くすことはできるはずだ。

そして留意しなければならないのは、この難民の受け入れや入国禁止は単にアメリカの問題だけではないことだ。日本はアメリカに「戦争協力」ができることによって、今後、難民発生に直接加担し、その「補償」としての「難民受け入れ」も求められる可能性が高くなるからである。それを回避するために我々は何をすべきなのか、議論を深めなければならい。

*筆者のこれまでの記事はこちら

yonekawa161018-2.jpg[執[筆者]
米川正子
立教大学特任准教授、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表。
国連ボランティアで活動後、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、スーダン、コンゴ共和国、ジュネーブ本部などで勤務。コンゴ民主共和国のゴマ事務所長を歴任。宇都宮大学特任准教授を経て、2012 年11 月から現職。専門分野は紛争と平和、人道支援、難民。著書に『あやつられる難民: 政府、国連、NGOのはざまで』 (ちくま新書 、2017年)、 『世界最悪の紛争「コンゴ」~平和以外に何でもある国』(創成社、2010 年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの「演習」把握 トランプ氏と協

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中