トランプを勝利させた「白人対マイノリティ」の人種ファクター
ところが、蓋を明けてみたら、黒人の投票数は前回2回の大統領選を大きく下回った。「黒人大統領」のオバマを応援するというモチベーションがなくなったからだろう。
そして、白人有権者は予想以上に多く投票した。白人有権者の不満を積極的に取り込んだトランプがこの票を集めた。この差が、思いがけない州での逆転につながった。
トランプは、予備選当初から「イスラム教徒によるテロ」「ヒスパニック系移民と都市部の黒人の暴力」「職を奪う移民」といったイメージを与え続け、「アメリカを、白人の国のままにしたい」と考える白人有権者が、堂々とソーシャルメディアでそういった意見を語れるようにした。
差別的な発言を繰り返すトランプが社会に与える影響に恐怖を覚えるマイノリティは、ヒラリーを支持した。アメリカの人口動態は劇的に変わりつつある。アメリカは、どんどん「マイノリティ」「無宗教」「都市型」「ジェンダーフリー」の国になりつつあり、現在は過渡期だ。
だが、メディアがそれについて語れば語るほど、アメリカでマジョリティ(多数派)としての地位を失いつつある白人有権者は恐れ、反発を覚えたのかもしれない。
トランプの「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)」という選挙スローガンと「アメリカを優先する」というメッセージの本質は、「アメリカを、マイノリティや移民が乗っ取る前の、居心地がよい白人の国に戻そう」ということだ。トランプに投票した裕福な白人有権者の言葉からは、そういったセンティメント(心情)を感じる。
【参考記事】ヒスパニックが多いフロリダ州で、トランプが逆転勝利した意味
アメリカの人々は、オバマ大統領の「希望」にひかれた。だが、今回はエスタブリッシュメント(既存政治)に対する「不満」と「怒り」がエネルギーの源となった。
これからトランプが直面する問題は、不満を抱える白人有権者に過剰な約束をしたことだ。
トランプ次期大統領には、「メキシコとの国境に壁を作る」「オバマケアより安くてすばらしい医療制度を作る」「職が外国に行くのを防ぎ、高給の職を沢山作る」という選挙公約を実現するために必要な経験や政治手腕はない。
その結果、アメリカの景気が悪化し、生活が今よりも苦しくなり、病気になっても医療保険に加入できなくなったら、トランプを支持した人たちは、今度は怒りをどこにぶつけるのだろうか?
トランプがまずやるべきことは、大統領選で票を取るために作り上げたペルソナ(人物像)を捨てることだ。
そして、自分に票を投じてくれた人々の期待に応えるべく、国民生活を良くする政策に誠実に取り組む。一方で自分を支持しなかった半数の国民が安心して生活できるような言動を取ることだ。
大統領選ではマイノリティや移民への差別で票を取ったとしても、実際には差別に反対する毅然とした大統領になれば、4年後の再選も可能かもしれない。