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トルコ政府とPKKとの抗争における「村の守護者」の役割

2016年10月13日(木)17時00分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

トルコ政府とPKKの抗争の激しさを図るバロメーター

 とはいえ、村の守護者制度にも多くの課題があった。1980年代、トルコ政府は部族長などを通して、村の守護者のコントロールに成功していた。しかし、90年代に入り、PKKとの戦いが激しさを増す中で村の守護者を増やした結果、次第に彼らを十分にコントロールできなくなった。

 例えば、PKKからの報復を恐れる者が逃走したりPKKに寝返ったりという事態が起こるようになった。この背景には、村の守護者に対するPKKの容赦ない攻撃があった。村の守護者当人はもちろんのこと、その家族、部族もその対象とした。1999年にPKKの党首、アブドゥッラー・オジャランが逮捕されたことで、PKKの勢力は一時的に弱まったものの、2000年代に入り再び攻勢を強めるようになった。村の守護者は、相変わらずPKKにとって主要な攻撃の対象であり続けている。

 加えて、村の守護者には、自身のステイタスや政府から支給された武器を私的な目的で使用しているという批判が付きまとっている。1985年から2003年の間に犯罪に加担した村の守護者は約4800人に上ると見られている。

 このように、多くの犠牲者を出し、さらに問題も指摘される村の守護者制度だが、PKKとトルコ政府の抗争が激しくなり、新たな和平交渉の糸口が見えない中、その役割が再評価されている。

 2016年9月1日に新たに内務大臣に就任したスレイマン・ソイル(Suleyman Soylu)は、9月23日に22の地域から村の守護者の代表37人を招集し、村の守護者制度を強化することを約束した。また、内務省下に村の守護者制度を専門に扱う部署を設置することも決定した。このように、村の守護者制度は、トルコ政府とPKKの抗争の激しさを図るバロメーターの1つである。

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