最新記事

米雇用

米国の中間層にかすかな希望

2016年8月26日(金)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

8月、ニューヨーク州で開かれた就職説明会に並んだ人たち Shannon Stapleton-REUTERS

 米国で、中程度の賃金の雇用が増加している。苦境が伝えられてきた中間層にとっては、久しぶりの朗報だ。

勢いを取り戻した中程度の賃金の雇用

「潮流が変わりつつある」──米ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、8月18日の講演でこのように述べ、2013年から15年までの期間について、中程度の賃金の雇用者の増加数が、低賃金・高賃金の雇用者の増加数を上回ったことを明らかにした(図1)。教員や建設作業員、事務補助員などの雇用者が増加したという。
chart1.jpg
 
 ダドリー総裁が「潮流」という言葉を使ったのには理由がある。

 米国では、長らく中間層が就くような雇用の伸び悩みが問題視されてきた。ニューヨーク連銀の調査によれば、2010年から13年の期間に関しては、中程度の賃金の雇用者の増加数は、低賃金・高賃金の雇用者の半分程度にとどまった。1980年から2010年の期間をみても、低賃金・高賃金の雇用者増に、中程度の賃金の雇用は全く追いついていなかった。

雇用の分極化に変化?

 中程度の賃金の雇用が伸び悩む現象は、「雇用の分極化」と言われてきた。中程度の賃金の雇用の存在感が薄れ、雇用が低賃金の職種と高賃金の職種に分かれていくからだ。

【参考記事】MITメディアラボ所長 伊藤穰一が考える「AI時代の仕事の未来」

 その背景には、グローバル化の進展やIT(情報技術)等の技術革新がある。

 中程度の賃金の雇用は、グローバル化や技術革新の影響を受けやすい。中程度の賃金の雇用には、事務・管理補助的なオフィスワークや、反復の多い製造関連の作業、機械操作など、定型化された仕事が多い。そのため、相対的に労働コストが低い海外へのアウトソーシングや、機械などによる置き換えを進めやすい性格があるからだ。

【参考記事】AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ

 定型化の度合いが小さい低賃金・高賃金の雇用は、そうした置き換えが難しい。対人サービスなどの低賃金の職種は、その場に応じた柔軟な対応を求められる。マネジメントなどの高賃金の職種は、抽象的な思考力や判断力が必要だ。

中間層の苦境はトランプ現象の一因

 雇用の分極化は、米国における中間層の苦境と表裏一体で進んできた。米国では、富裕層と貧困層が増加する一方で、中間層が縮小してきた(図2)。米国の調査機関であるピュー・リサーチセンターによれば、所得水準が中間層に属する米国民の割合は、1971年の61%から、2015年には50%にまで低下している。
chart2.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中