最新記事

ビジネス

Airbnbが家を建てた――日本の地域再生のために

2016年8月11日(木)06時12分
安藤智彦(本誌記者)

課題先進国の日本で始める意味

「吉野杉の家」は、単なる展示会用のモデルハウスとして建造されたわけではない。「HOUSE VISION 2016 TOKYO EXHIBITION」の終了後は、吉野杉のお膝元、奈良県吉野町にトラック7台で移送し、使用可能な物件として再び組み上げられる。すでに土地も用意されており、今秋以降、実際にAirbnbの物件として貸し出される予定だ。

 それでも疑問は残る。新規事業の第1弾となる場所がなぜ、日本の、それも観光地として著名な東京や京都ではなく、奈良の吉野町なのか。

「少子高齢化が避けられない課題先進国の日本で始めることに意味がある。今後日本の人口は年間80万人のペースで減少していく。一番影響が大きいのは過疎に悩む地方の町だ。一方で、地域を再興していくにはその柱となるコミュニティが必要となる。そうした課題にAirbnbとして何ができるか。そう考えた時に出合ったのがこの町だった。林業や醸造業など、観光客を惹きつける地場の産業が残る。手仕事に秀でた職人もいる。春に満開となる吉野桜など、自然にも恵まれている。観光資源が眠り潜在的なニーズは間違いなくあるが、それを生かし発信する場がない。吉野杉の家を、そうした課題解決型のモデルケースにしたい」

 吉野杉の家は、吉野町の林業従事者が伐採した吉野杉を用い、吉野町の大工の手で建てられた。建造に際しては、建材としての吉野杉の特性を知る地元の人々が代々受け継いできた知識を活用している。ゲストをもてなす家のホスト役は、地域のコミュニティが担う。1階部分の大きく開け放たれた窓と縁側は、来訪者と地域の人々の活発な交流の場としても機能させる狙いがあるという。

「吉野町だけでも数百軒の空き家がある。一から家を建てるだけではなく、吉野杉の家で提案するモデルを参考に、空き家の再生など地域を活性化できればと考えている。他の日本の地方もそうだし、同様の問題を抱える韓国や中国、欧州でも布衍できる試みだと思う」

 もちろん、理想と現実は違う。実際に観光客が訪れるのか、地域コミュニティはスムーズに機能するのか、正味の経済効果はいかほどか――稼働して初めて見えてくる課題も多いだろう。だが、潜在的な企業価値の評価額が300億ドルに達し、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長するAirbnbが過疎問題に挑むことに意味がある。成否も含めたその行方を、しばらく注視していきたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

年末の米原油先物58ドル、米景気後退回避と供給増な

ビジネス

中国発改委、民間企業と座談会 米関税への対応巡り意

ビジネス

ヘッジファンドで損失拡大、ネットレバレッジも低下=

ビジネス

焦点:ECB連続利下げか、年末までに4回との見方も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中