最新記事

インタビュー

「参院選後」の野党、国会、有権者のあるべき姿とは?――吉田徹・北海道大学教授に聞く

2016年7月21日(木)16時04分
BLOGOS編集部

国会制度の運営や規則の見直しなどで変えられることも

――「一強多弱」と言われているものの、55年体制の崩壊以降、自民党が単独で政権を維持するのが難しい状況が続いています。衆参両院で見れば、民主党政権時もそうでした。このような"単独で政権を維持できない"状況は望ましいのでしょうか。

吉田:この参院選でも、やはり自民党は1989年に失った過半数にわずか届きませんでした。(編集部注:選挙後、無所属の平野達男・元復興相が自民党に入党届を提出したことで、自民党は27年ぶりに参院で単独過半数を回復。)

 実際、90年代の政治改革以降、「二大政党制」が喧伝されながらも、現実に進んだのは連立政権の常態化と参院との「ねじれ」でした。衆議院と参議院の政治制度が異なるのであれば、こうした状況は今後とも続くことが予想されます。「おおさか維新の会」は一院制を主張していますし、かつての民主党もそうでした。政治学者の中にもそうすべきだと提言する人もいます。究極的にいえば「時間がかかる決められない政治」がよいのか、「簡単に決めすぎる政治」がよいのかという選択にもなりますが、長期的視点に立って判断していく必要がある事柄でしょう。

――日本において、二大政党制の実現や、自民党に対抗しうるだけの野党が台頭することに期待をかけるよりも、むしろ自民党内に宏池会があり、党内で綱引きが出来た55年体制的な時代に戻す方が良いのでは、という意見もあると思います。

 健全な議論のために、"自民党内野党"が育つことに期待するのか、引き続き公明党のような与党内の"ブレーキ役"に期待するのか。どうお考えでしょうか。

吉田:「ハト派」「タカ派」の両方を含む、ヌエ的な自民党は、小選挙区制を中心とした選挙制度のもとでは、復活しようがないでしょう。小選挙区制のもとでは社会経済政策では中道寄りになっても、理念的には純化路線を歩むのが大政党にとっての合理的な解です。それゆえ、かつてのような「党内多元主義」は期待できません。もしブレーキ役を求めるとすれば、それは従来の派閥均衡や擬似政権交代とは違う方法で実現しなければならないように思います。

――国会の制度面を改革することで、目下の問題点を変えられる可能性はありますでしょうか。

吉田:よく野党は党利党略ばかり、国会でもパフォーマンス狙い、と指摘されます。ただ、これには日本の国会制度の特徴も影響しています。誤解を恐れずにいうと、日本は制度的にはイギリスの議院内閣制をモデルにしているものの、運用規定はアメリカ議会をモデルにしているような、ハイブリッド型です。それが悪いというわけではありませんが、例えば議事日程に政権が関与できませんし、委員会中心主義であるにもかかわらず、実質的な審議というよりは党派的な対立を固定化するような仕組みになっています。

 そのため、与党は強引に法案の採決を狙い、野党は会期の短さを逆手に廃案に追い込もうとして、結局、法案の修正が手つかず、などという展開になります。

 テレビ中継も入ったことで、結果として、国会ではフリップをつかって世論向けのパフォーマンスがはじまるようになります。議員が使うフリップなどは、本来であれば同僚や閣僚に向けて提示されるべきなのに、テレビ画面を向いているのは、そのよい象徴かもしれません。

 もちろん制度をいじればそれで全ての問題が解決するわけではありません。ただし、二院制の廃止などといった大上段に構えた、解りやすい改革以前に、国会制度の運営や規則の見直しなどで、政治の効率性の向上や野党による審議機能の実質化などが可能なはずです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ

ワールド

タイ経済、下半期に減速へ 米関税で輸出に打撃=中銀

ビジネス

午後3時のドルは147円付近に上昇、2週間ぶり高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中