最新記事

北朝鮮

狙われる少女、アキレス腱を切られる労働者――最新の北朝鮮人権報告を読み解く

2016年7月4日(月)15時47分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

<米国務省が人身売買に関する年次報告書を発表。「最悪の人身売買国」北朝鮮は、国内での人権侵害に加え、外貨獲得のための海外派遣労働者たちの過酷な環境、中国に逃れた脱北者たちの人身売買被害についても強く批判されている>

 米国務省は6月30日、人身売買に関する年次報告書を発表した。その中で北朝鮮は、14年連続で最悪の人身売買国として評価された。

 北朝鮮については最近、国内での人権侵害に加え、外貨獲得のため海外に派遣された労働者たちが過酷な環境に置かれていることについても批判が集まっている。

凄惨なリンチ

 報告書は、多くの労働者は劣悪な環境での仕事を強いられ、移動、通信も制限され、厳しい監視のもとで暮らしていると指摘し、逃げ出した場合には本人のみならず、北朝鮮に残してきた家族に制裁が加えられるとしている。1日に12時間から16時間、場合によっては20時間もの長時間労働を強いられ、休みは月に1~2日しか与えられない。

 この問題については、現場から逃げ出そうとした労働者がアキレス腱を切られたり、掘削機で足を潰されたりという凄惨な私刑(リンチ)を受けていることが、デイリーNKの取材でもわかっている。

(参考記事:アキレス腱切断、掘削機で足を潰す...北朝鮮労働者に加えられる残虐行為

少女たちも被害

 一方、海外においては脱北者もひどい状況に置かれている。

 報告書は、北朝鮮当局の弾圧を避けて国を脱出した少なくない人々が、中国で人身売買の犠牲になっていると指摘している。中国に脱出した人のうち、1万人に達する女性が強制結婚、望まないセックスワーク、家事労働などで苦しめられているという。

 付言するなら、これは成人女性に限った話ではなく、幼い少女たちも人身売買組織などに狙われている。

 報告書は北朝鮮国内において、男性、女性、子どもが強制労働と望まないセックスワークの対象となっているとも指摘している。政治犯収容所には、正式な裁判を経ていない8万人から12万人が収容されており、子どもを含むすべての収容者が、殴打、拷問、レイプ、医療や食料の不足に苦しめられ、極めて非衛生的な環境のもとで、長時間の労働を強いられている。

(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた...北朝鮮「人権侵害」の実態

 報告書は北朝鮮政府に対して、政治犯収容所の収容者と海外派遣労働者に強制労働を科し、北朝鮮に送還された人身売買被害者を死刑を含む重罰に処すことを止め、国内外の人身売買の被害者を支援し、人身売買を重大犯罪と規定し、犯人を処罰することを求めている。

 また、海外派遣労働者とまともな労働契約を結ぶこと、労働者に正当な賃金を支払うこと、転職の自由を認めることなどを求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中