最新記事

南シナ海

南シナ海から消えたサンゴ礁、中国が希少な巨大貝乱獲

2016年6月30日(木)10時33分

 6月28日、絶滅の危機にあるオオシャコガイでできた装飾品は中国で縁起が良いとされており、誰もが欲しがるぜいたく品となっている。だがそれは、南シナ海の生態系を大量破壊するトレンドでもある。写真は、海南省にある町Tanmenの手工芸品店。5月撮影(2016年 ロイター/Farah Master)

絶滅の危機にあるオオシャコガイでできた装飾品は中国で縁起が良いとされており、誰もが欲しがるぜいたく品となっている。だがそれは、南シナ海の生態系を大量破壊するトレンドでもある。

中国は昨年、オオシャコガイの捕獲を禁止したが、海南島にある小さな港町Tanmenでは、ほとんどの店でいまだに幅1.2メートルほどのオオシャコガイから作られた装飾品が売られている。

閑散としていたこの漁村は過去3年間で、オオシャコガイを一大産業化している。手工芸品を売る店は2012年は15店だったのに対し、現在は約460店も存在する。約10万人の雇用を支える産業にまで成長した。

オオシャコガイの価格は過去5年間で40倍に急騰する一方、乱獲は岩礁の状態をひどく悪化させていると、科学者や専門家は警鐘を鳴らす。

「南シナ海で緊張が高まるにつれ、領有権を争う海域で中国の主張を強め、中国人民解放軍の海軍を支援するTanmenの漁師たちの重要な役割を、中国政府は認識している」と、シンガポールの南洋理工大学のアソシエイト・リサーチフェロー、張宏洲氏は指摘。

「その結果、当局は見て見ぬふりをしている」のだと張氏は語る。

中国は南シナ海ほぼ全体の領有を主張しており、フィリピンを含む東南アジア諸国と争っている。同海域の漁獲量は世界の10分の1以上を占める。

Tanmenを管轄下に置く海南省瓊海市の政府は昨年3月、オオシャコガイを含む海洋生物の絶滅危惧種の捕獲や運搬、売却を厳重に取り締まると発表した。

「市政府は禁止令を施行している」と、市政府の渉外担当者は語った。別の当局者も、当局はそうした産業を支援していないと述べた。

漁師たちは昨年以降、オオシャコガイの捕獲は許されていないと述べ、店主たちも新たな入荷は引き続きひっ迫していると語る。

オオシャコガイを捕獲するには岩礁全体を掘り返さなくてはならないと、シンガポール国立大学の海洋生物学者、ネオ・メイ・リン氏は説明。「本当に素晴らしいサンゴ礁だったものが、この2、3年で例外なく破壊されてしまった」という。

メディアによると、Tanmenの漁師たちの収入は過去3年で3倍以上に増え、町は道路が舗装されたり現代的なビルが建設されたりと、急速に都市化している。

「海南島の人たちは基本的に、生きていようが死んでいようが、オオシャコガイを南シナ海から取り尽くしている」と語るのは、フィリピン大学海洋科学研究所のシニアアドバイザーであるエド・ゴメス氏。

しかし最近Tanmenを訪れたところ、港の遊歩道に並ぶ店はほとんど客がいなかった。多くの店が言うには、中国の厳しい景気と急激な気温上昇のため、4月以降、商売上がったりだという。

「現在、観光客はいない。9月まで待たねばならない」と、店のオーナー、Yu Guoさんは話す。Yuさんはまだ景気の良かった4年前、北京からTanmenに移り、不動産を購入して、現地のパートナーと一緒に店を開いた。

「景気の良かったころは、1カ月に1000万元(約1億5400万円)も稼げた」と、Yuさんは語った。

(Farah Master記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



[TANMEN(中国) 28日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

農林中金、4ー9月期の純利益846億円 通期見通し

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、財務相・日銀総裁会談

ビジネス

日経平均は4日続落、米エヌビディア決算控え売買交錯

ワールド

ウクライナ西部で爆発、ロシアがミサイル・無人機攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中