最新記事

ワークプレイス

つながりから「未来」を学び続ける

2016年5月13日(金)15時05分
WORKSIGHT

wsShell-2.jpg

人と人を結ぶ、アトリウムのカフェテリア。アトリウムで会った社員同士が「じゃあコーヒーでも......」と、立ち寄る場所だ。

wsShell-3.jpg

アトリウムを上から眺める。社員用のコーヒーメーカーはオフィスフロアにはないため、コーヒーを飲みたければアトリウムを訪れる必要がある。

 建物中央に長く延びるアトリウムは、ラボ、実験ホール、ワークショップ、オフィスからなる5つの翼、合計8万平方メートルのフロアを結んでいる。

 このアトリウムはテクノロジーセンターのいわば背骨のような役割を果たし、各翼の人々を結びつけているようだ。アトリウムにカフェテリアやレストランがあり賑わっているのとは対照的に、オフィス内にはコーヒーマシン1つ置かれていない。飲みたければ、人が集うアトリウムまで出てこなくてはならないのだ。

 ロイヤルダッチシェルの歴史的資料やアート作品が展示されることもあり、作品を鑑賞するため足を止めた従業員同士が雑談する光景がよく見られるという。オフィス内での部署の配置には、社会科学におけるソーシャルネットワーク分析が応用された。これも出会いの機会をつくり出す仕掛けだ。

「誰と誰が交流しているか、ネットワークの中心は誰か、といった分析に基づいて部署やデスクの配置を決めたんです。例えば、ものすごく多くのコンタクトを持つ人を一番奥のデスクにする。彼が動けば周りも動くし、彼に会うために人も動くわけです」

10年単位の研究開発では「早い段階での失敗」が欠かせない

 これほどつながりが重視される理由、それは、つながりから生まれるイノベーションこそが、テクノロジーセンターの使命だからに他ならない。

 テクノロジーセンターの具体的な業務は、石油、ガス、化学テクノロジーの開発、将来のエネルギー技術の研究を行うこと。そのプロセスは、理科の実験程度のスキルでも可能な、小さなアイデアの展開から始まるという。

「ポテンシャルのあると見なされたアイデアのみ、次の段階でスケールを大きくして試してみます。アップルパイを1つ作るなら誰にでもできますが、これを1時間に100個、24時間体制で作るとなると難しい。現実には、スケールが大きくなる段階で1000のアイデアのうち999はダメになってしまいます。残った1つが、パイロットプラントの段階に進んでいきます」

 開発は段階を経るごとに実験のスケールが大きくなり、技術のレベルが上がる。予算も膨れ上がっていく。これが商業規模のプラント稼働段階に至れば1基あたり10億ユーロ単位の投資を要し、その後数十年は稼働し続けるのだ。後の段階になるほど失敗は許されない。「プラントができました、2日後に不備が見つかりました、では困るのです」

wsShell-4.jpg

アトリウムからは実験施設内部が見える。社内の情報を可視化し、企業の透明性を高める仕掛けになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中