つながりから「未来」を学び続ける
建物中央に長く延びるアトリウムは、ラボ、実験ホール、ワークショップ、オフィスからなる5つの翼、合計8万平方メートルのフロアを結んでいる。
このアトリウムはテクノロジーセンターのいわば背骨のような役割を果たし、各翼の人々を結びつけているようだ。アトリウムにカフェテリアやレストランがあり賑わっているのとは対照的に、オフィス内にはコーヒーマシン1つ置かれていない。飲みたければ、人が集うアトリウムまで出てこなくてはならないのだ。
ロイヤルダッチシェルの歴史的資料やアート作品が展示されることもあり、作品を鑑賞するため足を止めた従業員同士が雑談する光景がよく見られるという。オフィス内での部署の配置には、社会科学におけるソーシャルネットワーク分析が応用された。これも出会いの機会をつくり出す仕掛けだ。
「誰と誰が交流しているか、ネットワークの中心は誰か、といった分析に基づいて部署やデスクの配置を決めたんです。例えば、ものすごく多くのコンタクトを持つ人を一番奥のデスクにする。彼が動けば周りも動くし、彼に会うために人も動くわけです」
10年単位の研究開発では「早い段階での失敗」が欠かせない
これほどつながりが重視される理由、それは、つながりから生まれるイノベーションこそが、テクノロジーセンターの使命だからに他ならない。
テクノロジーセンターの具体的な業務は、石油、ガス、化学テクノロジーの開発、将来のエネルギー技術の研究を行うこと。そのプロセスは、理科の実験程度のスキルでも可能な、小さなアイデアの展開から始まるという。
「ポテンシャルのあると見なされたアイデアのみ、次の段階でスケールを大きくして試してみます。アップルパイを1つ作るなら誰にでもできますが、これを1時間に100個、24時間体制で作るとなると難しい。現実には、スケールが大きくなる段階で1000のアイデアのうち999はダメになってしまいます。残った1つが、パイロットプラントの段階に進んでいきます」
開発は段階を経るごとに実験のスケールが大きくなり、技術のレベルが上がる。予算も膨れ上がっていく。これが商業規模のプラント稼働段階に至れば1基あたり10億ユーロ単位の投資を要し、その後数十年は稼働し続けるのだ。後の段階になるほど失敗は許されない。「プラントができました、2日後に不備が見つかりました、では困るのです」