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イギリストランプも黙らせたイスラム教徒、ロンドン新市長の実力
こんなご時勢だが、ロンドン市民は人種も宗教も階級も憎悪も超えた選択をした
英雄 新市長に就任したカーン。昨日トランプの例外扱いをきっぱり断った Toby Melville-REUTERS
ロンドンでは先週、英労働党のサディク・カーン(45)がイスラム教徒として初めてロンドンの市長に当選した。新市長が訪米したらどうするのか、イスラム教徒の入国禁止を公言している米大統領選の有力候補ドナルド・トランプにニューヨーク・タイムズ紙が聞いたところ、カーンは「例外」だと答えた。いったいどれほどの人物なのか。
まず、イスラム教徒が市長になるのは、ロンドンに限らず欧米の首都として初めて。テロや難民危機で欧米に反イスラム感情が高まり、対立候補にもイスラム教徒であることを攻撃されながらの市長選は、国際的にも注目を集めていた。
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カーンの父はパキスタンからの移民でバスの運転手。8人兄弟の5番目としてロンドンの低所得者向け公営住宅で暮らした。法律家を目指して大学へ進学し、下院議員に初当選するまでは人権派弁護士として働いた。その歩みはまさに移民のサクセスストーリーであり、「ブリティッシュドリーム」を体現している。
人種と宗教
市長選の間には、身内の労働党内にすらイスラム教徒であること自体が不利だという見方が少なからずあった。
英保守党の対立候補ザック・ゴールドスミスは、カーンがイスラム過激派を支持していると批判し、有権者の恐怖心をあおろうとした。だがゴールドスミスが展開したネガティブキャンペーンは、同じ保守党のアンドリュー・ボフをはじめ多方面から「分断をあおる」として強い批判を受ける。
イスラム系のコメンテーターはかねてから、ロンドンでイスラム教徒の市長が誕生すれば、西欧は反イスラムではないこと、成功への扉はイスラム教徒にも開かれていることを証明し、結果的にイスラム過激派のイデオロギーを打ち負かすことにもつながると主張してきた。今回のカーンの勝利は、その主張を一歩前進させるものだ。
カーン自身も2005年、イスラム過激派によるロンドン同時爆破テロを経験し、自分が初のイスラム教徒の市長になることには象徴的な価値があると語っていた。
力と特権
カーンの勝利は人種や宗教面だけでなく、社会流動性の面からも見過ごせない。
カーンの父親のように第2次大戦後大挙してイギリスに渡ったパキスタン移民の多くは貧しい農民や肉体労働者で、母国語の読み書きもできないケースがほとんどだった。
イングランド各地の工場やサービス業で何とか働き口を見つけ、貧困から抜け出す者もなかにはいたが、イギリスのパキスタン系コミュニティーはいまだに失業率が高く、子どもの学業成績も最低のまま。その多くが、イギリスで最も貧しい地域に暮らしている。
イギリスの政治はよく知られているとおり、名門校出身の上流階級による「同窓生ネットワーク」に牛耳られている。デービッド・キャメロン首相をはじめ、ジョージ・オズボーン財務相、任期満了で退任したロンドン前市長ボリス・ジョンソンもその典型。カーンの対立候補だった保守党のゴールドスミスも家柄や財産、政治的な人脈、メディアやビジネス上のつながりまで申し分のないエリートだった。
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カーンの当選は、特権に対する実力主義の勝利と映る。政治の包容力が増し、以前より多様な民族的、宗教的、社会経済的バックグラウンドを反映できるようになったサインでもあろう。
パキスタン移民2世がイギリスで政治的重要性の高いポストにつくのは、カーンが初めてではない。キャメロン内閣でイギリス初のイスラム系女性閣僚に抜擢されたバロネス・サイーダ・ワルシの父もパキスタン移民だ。2015年に実施された総選挙では、10人のパキスタン系イギリス人が国会議員への当選を果たした。
そして今や、バスの運転手だったパキスタン移民の息子がロンドン市長の座を射止めた。西欧で最も影響力のあるイスラム教徒になったのだ。
Parveen Akhtar, Lecturer in Sociology, University of Bradford
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.