最新記事

朝鮮半島

北朝鮮党大会を中国はどう見ているか?

2016年5月9日(月)16時24分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 それというのも、なんとか朝鮮半島の非核化を目指す六カ国会談に北朝鮮を誘い込み、北朝鮮にミサイルや核開発を断念させることが中国の切なる望みだったからである。

 この年は在北京の北朝鮮大使館で催された祝賀会には李源朝・国家副主席が参加するなど、なんとか北朝鮮を説得しようと、習近平政権は、まだ必死の努力を重ねていた。

 だというのに今年に入ると、水爆実験と称する核実験だけでなくミサイル発射など、北朝鮮はやりたい放題の暴走を中国に見せつけた。10月10日の祝賀閲兵式に参加していた楼閣の上で金正恩とともに手を振っていた劉雲山の姿を、すべての写真や動画から「削除」してしまったほどだ。

 堪忍袋の緒を切らした習近平は、国連安保理の北朝鮮制裁決議に賛同している。

 こんな状態でもなお、たとえ250文字とはいえ、せめて「祝電」を送ったことは、まだ断絶状態にまでは至っていないことの表れと解釈していいかもしれない。

核を以て核を制する北朝鮮の論理

 中国が怖れていたのは、北朝鮮が「核保有国」を名乗ってしまうことだった。

 しかし、その最悪の事態が第7回党大会で現実のものとなってしまった。既存の核保有国なみに、北朝鮮も核保有国として核不拡散に協力すると宣言したのである。

 朝鮮半島の非核化を目指して六カ国協議を主導してきた中国としては、成すすべを失っていると言っても過言ではないだろう。まるで北朝鮮に「押し切られた」形だ。

 日本では北朝鮮の第7回党大会を大々的に報道しているが、中国のメディアにおけるウェイトは日本より遥かに低く、むしろ報道を控えているといった印象を抱く。

 中国としては、顔に泥を塗られた程度の範疇を越えているからだろう。

経済五カ年計画

 そのような中、国民経済発展五カ年計画に関しては中国メディアでも分析が行われている。

 朝鮮労働党の党大会は、「1945年、1948年、1956年、1961年、1970年、1980年」と、過去6回開催されているが、1956年では五カ年計画(1957年~1961年)が、1961年では七カ年計画(1961年~1967年)が、そして1970年では六カ年計画(1971年~1976年)が出されたようだ。

 1980年では経済計画は出されず、金日成(キム・イルソン)が「高麗民主連邦共和国」を提唱して朝鮮半島の統一を計画したと、中国政府の新華社は分析している。

 今年の第7回党大会では2016年から2020年までの五カ年計画が発表された。電力供給に重きを置いているようだ。

 改革開放をして経済発展に重きを置けと北朝鮮に対して主張してきた中国としては、なんとも複雑な気持ちだろう。

 さて、今後中国がどう出るのか。

 新たな段階のジレンマに入っていった中国の動向が注目される。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:注目浴びる米地区連銀総裁の再任手続き、ト

ワールド

焦点:ノルウェー政府系基金、防衛企業の投資解禁か 

ビジネス

三菱UFJが通期上方修正、資金利益や手数料収入増加

ビジネス

JPモルガン、ドバイ拠点強化 中東の中堅企業取り込
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中