個人の身の丈に合った「ナリワイ」で仕事と生活を充実させる
モンゴルの方々も希望に沿ったツアーが実現して喜んでくれています。ゲルに1週間滞在するということは半分ホームステイに近いんです。ツアーで羊の解体・調理や乳製品作り、羊毛からの糸作りなどすることは、スタッフや地元の人にとっても楽しいことだそうです。
そういう地域密着型のツアーなので、参加申し込みがあっても本人の希望にそぐわなければ他のツアーを紹介してお断りします。収入の面では1人でも参加者が増えた方がいいんですけど、それよりも参加者と企画との相性を最優先します。最初の頃は参加者が少なくて赤字のこともありましたが、他にないツアー内容が看板となって最近は15人前後の参加者が集まります。収益の面でも安定してきました。
現地の暮らしを体験するので、実践的な学びになる
他に通年で行うものでは、田舎で土窯パン屋を開きたい人向けのワークショップがあります(「熊野暮らし方デザインスクール――田舎で土窯パン屋を開く」)。1週間、和歌山県熊野市で土窯を使ってパンを焼くご夫婦の元に泊まり込み、小麦の栽培、製粉から土窯作り、パン作り、田舎暮らしの実際までを実地で学びます。僕は事務局として動き、受講受付と先生役を務めるパン屋さんとの日程調整を行います。
年間10組くらいの参加ですけど、在庫や講師の人件費、教室の賃貸料などが発生しないのでリスクを低く抑えられます。在庫や固定費を減らすことはナリワイを続ける上で1つのポイントです。
【参考記事】シェアリングエコノミーで人をつなぐ、オランダ発のコワーキング
参加者の反応は良くて、受講後に3~4割が実際に田舎暮らしを始めています。専門学校でパン作りだけを学ぶのと違って、実際にパン屋をしている人の暮らしを見ながら学ぶので、より分かりやすくて実践的なんでしょうね。
講師であるパン屋さんも受講生との交流を楽しんでくれていて、好評をいただいています。収入にもなるので、パン屋さんにとってもこのワークショップは1つのナリワイということになります。
一般人に分かりやすく技能を伝えることが仕事になる
それから床張りのワークショップも通年で行っているナリワイです。床張りができるようになれば空き家を安く住まいにできるんじゃないかという思いから、床張りの特訓を思い立ったんです。1人で黙々とやるだけではつまらないので、「全国床張り協会」というふざけた名前の協会を作って同志を募ったら、これが結構いるんですね。「自分の家を修繕したい」「古民家を改修してゲストハウスを開業したい」「単に面白そう」など参加の動機はまちまちなんですが、ともあれ床張りの依頼があればそこを実践の場としてワークショップを行うことにしました。
現状では月1回くらいの開催で、施主の方には材料費と難易度が高い場合に講師となる大工の日当を負担してもらいます。難しくない床張りなら僕が講師を務めます。受講者の参加料から経費を差し引いたものが僕の収入となります。
参加者のメリットは床張りを実地で勉強できるということ。施主のメリットは費用を安く抑えられる、自分も一緒に床張りができるという2点が大きなところです。もう1つ隠れた要素としては、お店やゲストハウスを開業したい人にとって広報の一環になること。自分で床を張った建物って完成形を見てみたいんですよね。だから床張り参加者に「無事オープンしました」と報告すると、その人たちがお客さんとして来てくれる。多少なりとも集客の役目を果たしているわけです。もちろんビフォーアフターを見ることで、参加者も経験値を高めることができます。