最新記事

ワークプレイス

個人を尊重する社風づくりで電力業界の競争を勝ち抜く

2016年4月8日(金)18時14分
WORKSIGHT

wsEssent-10.jpg

「イヤーシート」と呼ばれるミーティングブース。1対1の会話や、電話をする時によく使われている。音を吸収する構造になっているため、声が響かず、集中して作業をすることも可能。

wsEssent-11.jpg

(左上)会議室の予約など、ITシステムが充実。QRコードを読み取ると、その部屋の利用予約ができる。コーヒーメーカーの故障を見つけた際にも、このシステムを使ってメンテナンス部門に速やかに知らせることができる。最小限の労力でファシリティを管理する知恵だ。(左下)社員にはノートパソコン、スマートフォン、イヤピースの3点が支給される。エッセントの働き方を支えるプラットフォームだ。遠隔時にはSkypeなどを使ってコミュニケーションをとることが多いという。(右)バーカウンターを思わせる天板の高いデスク。立ったままミーティングをしたり、ノートパソコンを使って作業をすることもできる。

伝統的なマネジメント手法との決別

 つまり、独立自尊の起業家精神を持った従業員を育成するきっかけとしての自宅勤務。これをサポートするため、会社からは自宅用のデスクとチェア、プリンタを揃える手当が支給されている。これには、オフィススペースを節約して得た利益を従業員に還元する意図もあるようだ。「いい結果が出れば社員に報酬をはずめる。これで気持ちよく働いてもらえれば結果、また仕事の効率も上がります」と微笑むブロウメルス氏だ。とはいえ現状、マネジャーは過去の伝統的なマネジメント手法から脱するのに苦労していると明かす。

「これからは、マネジャーというよりはリーダー、道を示す役割といったほうがふさわしいかもしれません。通常、マネジャーはワーカーに対して『仕事は進んでいるか』『何をやったか』『いつ終わるのか』などと事細かにチェックします。いっぽうリーダーは、そういった仕事の中身よりも『体調は大丈夫か』『時間は足りているか』『フィードバックが出た、この人と共同でやったほうがいいかも』などと、仕事全体の大きな流れを注視する必要がある。いわば、木を見ず森を見る。細かいことをいちいちチェックするのではなく、全体のなかでパーツがしっかり機能しているかどうかを見るんです」

 戸惑っているのはマネジャーだけではない。従業員にも適応に苦しむところがあるようだ。週2日の自宅勤務と聞けば、誰もが小躍りして喜ぶだろう。エッセントでは平等にノートパソコン、スマートフォン、イヤピースが会社から支給され、どこにいてもシステムにログインして仕事ができ、ネットワークを通じて社外から会議に参加することもたやすい。それでもなお、とブロウメルス氏が釘を刺す。

「実は、自宅勤務には悪い点もあるんです。まず気づいた点は、仕事をしすぎてしまうことでした。自宅にいると『サボっているだけでは......』という罪悪感が芽生えるのでしょう。オランダ人はドイツ人や日本人に比べて自由な気質だと言われますが(笑)、それでも仕事のことは気にかかるんです。スマートフォンでメールを常時チェック、仕事をしていることを証明しようとあえて夜遅くにメールをしたり。よくあることですが、難しい問題ですね。おそらくはマネジャーによるケアが必要になるのでしょう。従業員がオフィスに出勤したときに、仕事上の指示伝達、情報交換に終わらず、仕事の進行具合はどうか、ヘルプが必要かなど密なケアをする。仕事と休息のバランスをとること、これはマネジャーにとっても従業員にとっても、今後の課題になりそうです」

創業:1999年
売上高:約44億ユーロ(2014)
従業員数:約2700人(2014)
https://www.essent.eu/

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:!PET
建築設計:B V 3

WORKSIGHT 07(2015.4)より

text: Yusuke Higashi
photo: Takeshi Miyamoto

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト

ビジネス

政府、25・26年度の成長率見通し上方修正 政策効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中