最新記事

オピニオン

ISISからシリアを解放できるのはアメリカ、さもなくばロシアとアサド

2016年4月4日(月)19時00分
フレデリック・ホフ(大西洋協議会中東センター上級研究員、元米中東特使)

 そう言いながら一方では、外国のシーア派武装勢力とロシア空軍の支援を受けたシリア軍がISISを蹴散らし、古代都市パルミラに進軍するのを何もせずに眺めているのは矛盾している。

【参考記事】シリア当局者語る、「パルミラはロシアの空爆を歓迎する」

 彼らが次はラッカに向かったらどうするのか。アメリカ政府と66カ国の有志連合はただ見ないふりをするのだろうか。それともISIS排除を優先して空爆でシリア軍を援護するのか。それこそ、ロシアのプーチン大統領の思う壺だ。かつてアサドは退くべきだと主張したアメリカ大統領は、まんまとこの大量虐殺者と軍事提携を結ばされるのだろうか。

 ISISを殺すのは地元の人間であるべきだ、という基準は誤っているし、自滅的だ。ISISの殺人者の頭を貫く銃弾は、フランス人のものでもヨルダン人のものでもシリア人が放ったものと同じ効き目をもつ。

戦後復興計画の恐るべき欠如

 またISISの奴隷にされ恐怖に震えてきた女や子供たちは、彼らを解放したのが近隣諸国の兵士でなく西側諸国の兵士だったとしても、国や宗教への侮辱とは思うまい。

 本当に問うべき質問は「次は何か」ということだ。アーネストが教訓について語りたいなら、軍と民間共同の戦後復興計画の完全な欠如について語るべきだ。

 イラクはその顕著な例だ。イラクでの失敗は、米兵の戦闘能力とは何の関係もない。責任があるのは、フセイン政権を倒しさえすれば、あとは外国に亡命した優秀なイラク人が何とかしてくれると考えていた米政府関係者だ。

 ではアメリカは、ISIS掃討後、シリアの反政府勢力の統治を支えることを主眼とした軍民共同の安定化計画を準備したのか。

 答えに「ノー」はありえない。戦いの時は必ず、軍事的に敵が倒れた後の「次」を考えなければならない。

 ロシアの支援を受けた"虐殺依存症"のアサドが、ISIS支配下の都市を奪回したときに何が起こりうるのかについても、オバマ政権は考えなければならない。1つの悪が、別の悪に取って替わられるわけだ。

 また前述したように、対ISISでアメリカがアサドと組むことになればロシアの思う壺、アメリカのアラブ同盟諸国との関係は崩壊する。

 今日まで、オバマ政権の頭のなかにあるのは、祖国愛からISISと戦うシリア人という美しいイメージだ。アサドがモスクワなりイランなりへ逃亡した後、シリア軍と反政府武装勢力が手に手を取ってISISが待つ東へ行進する......。

 美しい。だが、いったいいつまで待てば実現するのか。パリとブリュッセルの後、次の大規模テロまでどれだけ時間が残されているのだろうか。

This article first appeared on the Atlantic Council site.

Frederic C. Hof is a resident senior fellow with the Atlantic Council's Rafik Hariri Center for the Middle East.

 


 


 
 


 

 

 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中