最新記事

倫理

「尊厳死」法制化で悩む日本、高齢化と財政難が拍車

2016年4月3日(日)19時50分

 増子議員が会長を務める超党派の議員グループ「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」は、患者の同意を得て延命措置をしなかったり、中止したりした場合、医師を法的責任から守るための法律の制定を積極的に働きかけている。しかし、昨年、同グループは新たな法律の原案をまとめたものの、未だに国会提出に至っていない。

「薄情な治療中止」恐れる声

 厚い壁の一つは、伝統的な家族観に基づいた心理的な抵抗だ。これまでも日本では、家族がお年寄りの面倒をみるべき、という昔からの考え方が、延命治療を拒否したり中止したりする際の障害になってきた。患者が望んだとしても、多くの家族は薄情にも治療を放棄したと責められるのを恐れているのだ。

 医師も、家族から裁判で訴えられるとの危惧を抱いている。厚生労働省は2007年に「終末期医療」のガイドラインを作成、患者本人や代理人が医師などからの適切な情報提供や説明に基づいてケアのあり方などを決定する、医療行為を中止・変更する決定は複数の専門家で構成する医療ケアチームが慎重に検討する、などと定めている。

 しかし、医師側の懸念は払しょくできていない。「医師はそうした治療を中止した場合、刑事上、民事上いずれでも責任を問われないよう何らかの保証を求めている」。医師でもあり、かつて終末期のがん患者を担当したこともある自民党厚生労働委員会の古川俊治参議院議員は語る。

 さらに、 障害者の権利を守ろうとする団体が、安楽死合法化の第一歩になりかねないとの懸念から、強く反対している。

 法制化推進派が主張するのは、人間は尊厳を保って死に至ることを望む、ということだ。しかし、法制化推進派が「リビング・ウィル」の普及を働きかけているのは医療費削減が目的だ、と障害者の自立を支援するヒューマンケア協会の中西正司氏は手厳しい。

 こうした法案が通れば、「安楽死(の推進)につながってしまう」と72歳の中西氏はいう。同氏は21歳の時に脊髄を損傷、その時に医師からは3カ月の命と告げられた。以来、車いすの生活が続く。

遅れる法案提出

 日本の国民医療費は2013年度、初めて40兆円に達した。75歳以上の高齢者の医療費が全体の3分の1を占め、高齢化に伴ってその割合はさらに増える傾向にある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウォーシュ次期FRB議長候補、21日に上院銀行委で

ビジネス

米財務長官「最終的に利下げ必要」、コアインフレ低下

ビジネス

インフレリスクに注視、エネ高騰の影響見極めへ=グリ

ワールド

中国は「信頼できないパートナー」、戦時下の石油買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍の海上封鎖に中国が抗議、中国タンカーとの衝突リスク高まる
  • 2
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレベーター」とは
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 6
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 8
    トランプを批判する「アメリカ出身のローマ教皇」レ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中