「尊厳死」法制化で悩む日本、高齢化と財政難が拍車
増子議員が会長を務める超党派の議員グループ「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」は、患者の同意を得て延命措置をしなかったり、中止したりした場合、医師を法的責任から守るための法律の制定を積極的に働きかけている。しかし、昨年、同グループは新たな法律の原案をまとめたものの、未だに国会提出に至っていない。
「薄情な治療中止」恐れる声
厚い壁の一つは、伝統的な家族観に基づいた心理的な抵抗だ。これまでも日本では、家族がお年寄りの面倒をみるべき、という昔からの考え方が、延命治療を拒否したり中止したりする際の障害になってきた。患者が望んだとしても、多くの家族は薄情にも治療を放棄したと責められるのを恐れているのだ。
医師も、家族から裁判で訴えられるとの危惧を抱いている。厚生労働省は2007年に「終末期医療」のガイドラインを作成、患者本人や代理人が医師などからの適切な情報提供や説明に基づいてケアのあり方などを決定する、医療行為を中止・変更する決定は複数の専門家で構成する医療ケアチームが慎重に検討する、などと定めている。
しかし、医師側の懸念は払しょくできていない。「医師はそうした治療を中止した場合、刑事上、民事上いずれでも責任を問われないよう何らかの保証を求めている」。医師でもあり、かつて終末期のがん患者を担当したこともある自民党厚生労働委員会の古川俊治参議院議員は語る。
さらに、 障害者の権利を守ろうとする団体が、安楽死合法化の第一歩になりかねないとの懸念から、強く反対している。
法制化推進派が主張するのは、人間は尊厳を保って死に至ることを望む、ということだ。しかし、法制化推進派が「リビング・ウィル」の普及を働きかけているのは医療費削減が目的だ、と障害者の自立を支援するヒューマンケア協会の中西正司氏は手厳しい。
こうした法案が通れば、「安楽死(の推進)につながってしまう」と72歳の中西氏はいう。同氏は21歳の時に脊髄を損傷、その時に医師からは3カ月の命と告げられた。以来、車いすの生活が続く。
遅れる法案提出
日本の国民医療費は2013年度、初めて40兆円に達した。75歳以上の高齢者の医療費が全体の3分の1を占め、高齢化に伴ってその割合はさらに増える傾向にある。