TPPは上位1%のためにある
以前は貿易自由化で大きくなったパイが賃金上昇につながったが、今は上位1%を富ませるだけ
庶民には損ばかり? TPPが最も利益を生むのはこうしたモノの貿易ではない(加州ロングビーチの港) Bob Riha Jr.- REUTERS
かつては私も自由貿易協定はいいものだと思っていた。だがそれは、アメリカの経済成長の恩恵をごく少数の富裕層が独占し、その他すべてのアメリカ人の賃金が伸び悩むようになる前のことだ。
1960~1970年代に合意した貿易協定は、世界のアメリカ製品への需要を飛躍的に増やし、アメリカ国内の労働者に支払われる賃金も上がった。
しかし今の貿易協定は、アメリカ製品への需要を高めることは同じでも、企業や金融機関の利益を膨らませるばかりで国内労働者の賃金は上がらず、低いままだ。
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実のところ、近年の貿易協定は、輸出入という意味での貿易というよりグローバルな投資が主たる対象になっている。
アメリカの大企業は、もはやほとんど国内では生産していない。海外で売るものは海外で生産している。
トクをするのは大企業と銀行だけ
そんなアメリカ企業が今も「輸出」しているものと言えば、ごく少数のクリエイターやエンジニアの手になるアイデアやデザイン、フランチャイズ、ブランド、ソフトウエアなどだ。
アップルのiPhoneは日本やシンガポールをはじめとするアメリカ以外の国や地域で生産した部品を中国で組み立てている。iPhoneに関して唯一アメリカ製といえるのは、カリフォルニアの一握りのエンジニアやマネジャーが開発したデザインや仕様ぐらいだ。
その上アップルは利益のほとんど海外に蓄えている。アメリカでの課税を逃れれるためだ。
近年の「貿易」協定は、大企業やウォール街の金融機関、その経営陣や大株主には巨額の利益をもたらした。なぜなら彼らは、新しく開かれた海外の市場や消費者に直接アクセスできる利点があるからだ。
特許権や商標権、著作権といった知的財産権の保護でトクをするのも、海外に工場や設備、金融資産を多く保有する大企業や金融機関だ。
世界のGDPの40%を占める巨大な貿易協定である環太平洋自由貿易協定(TPP)を、大企業やウォール街が熱烈に支持するのはそのためだ。
TPPによって、大企業はさらに手厚い知的所有権の保護を受けるることができるし、企業活動の障壁となるような法制度があれば、それが医療や安全、環境に関わることであっても、異議を申し立てることができる(ISD条項)。だが大多数のアメリカ人にとってここから得るものはほとんどない。
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貿易協定によって企業の海外生産がより自由になった結果、アメリカ人の労働者はますます海外の低賃金労働者との競争を強いられ、賃上げ要求はいっそう難しくなっている。