最新記事

北朝鮮

北のミサイル VS.「日本最強」の情報機関

今後2~3週間以内ともされる長距離弾道ミサイル発射の兆候――今こそ知られざる最強の情報機関、防衛省情報本部の真価が問われる

2016年2月1日(月)17時53分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

衛星写真から 北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイル発射基地での人や車の動きが確認でき、発射に向けた準備の初期段階に入ったと考えられている(1月25日撮影) Airbus Defense & Space and 38 North/Handout via Reuters-REUTERS

 北朝鮮に長距離弾道ミサイルを発射する兆候があることを受けて、日本政府は28日夜、自衛隊に対し、ミサイルを迎撃するための破壊措置命令を出した。北朝鮮は2、3週間以内にも人工衛星の打ち上げと称して発射を実施する可能性があり、日米韓などの防衛当局は耳目をこらして動向を注視している。

 こうした局面で、日本の情報コミュニティーの主役となるのは防衛省情報本部だ。ジャーナリストの三城隆氏は様々なデータを挙げて、情報本部こそが「日本最強」の情報機関であると解説している。

 日本の情報機関といえば、「公安」がよく知られている。小説やドラマの題材となることも多く、一般にも認知された存在だ。それに比べれば、情報本部は非常に目立たない組織だ。一般の人々に限らず、「ハム担」と呼ばれるメディアの公安担当記者であっても、情報本部とツテを持っている者はほとんどいない。なぜなら、情報本部はヒューミント(人的情報活動)を行わないためだ。

 では、どうして情報本部が「日本最強」なのかと言えば、隷下に強力な電波傍受部隊を擁し、北朝鮮の通信を逐一拾い上げているからだ。その能力は、単に通信内容を知るだけでなく、日本の領海に入りこんだ工作船の位置まで特定することが可能だという。

 しかしそんな能力を持ちながら、自衛隊は拉致事件の多発を防げなかった。その背景には情報コミュニティー内部の錯綜した利害関係や、米軍への「配慮」があったからだと言われている。

(参考記事:自衛隊が「工作船接近」を知りながら拉致事件を見逃した理由

 日米同盟を防衛政策の土台としている日本においては、いかなる情報活動も、米国との関係から自由ではない。北朝鮮のミサイル問題にしてもそうだ。米国は、偵察衛星が撮影する画像を微妙に調整する「シャッター・コントロール」で日本に流れるデータを操作し、「情報優位」に立って、外交政策に影響を与えていると言われる。

(参考記事:米国の「シャッター・コントロール」に翻弄される衛星情報

 そうした影響を最小限に抑え、独自の「目と耳」で集めた情報で政策を立てることもまた、国家の安全保障にとって欠かせない戦いなのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中