最新記事

中国

暴走「将軍様」を見限れない習近平の本音

メンツをつぶされても対米戦略の「切り札」を捨てられない

2016年1月14日(木)15時02分
ミンシン・ペイ(米クレアモントマッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長)

核より怖い? 習にとって中国の安全保障上最大の脅威は今もアメリカだ Gary Cameron-REUTERS

 度重なる北朝鮮の挑発行為をかばってきた中国は、いよいよしびれを切らすのか──。先週、北朝鮮が「水爆実験成功」を発表。06年以来4回目となる核実験を機に、中国が北東アジアの平和と安定の維持により建設的な役割を果たすかどうかが注目されている。

 北朝鮮は、弾道ミサイルの発射実験など挑発行為を繰り返してきた。それでも中国はこの同盟国の暴挙に対して驚くほどの寛容さを示してきた。不快感を示す場合でも言葉での非難や国連安全保障理事会による制裁への同意にとどまり、北朝鮮をより厳しく罰することにはたいてい及び腰だ。

 中国が北朝鮮に甘い理由については2つの説がある。1つは北朝鮮政権を是が非でも存続させたいからだという説。もう1つは北朝鮮に対して影響力を持たないからという説だ。

 1つ目の説によれば、北朝鮮の挑発行為を黙認する中国の方針は、中国の安全保障に対する考え方と、民主主義を敵視するイデオロギーに深く根差している。中国の人民解放軍にとって北朝鮮はアメリカとの貴重な戦略的緩衝地帯なのだ。

 2つ目の説(たいてい中国自らが主張している)は、中国は北朝鮮に対してほとんど影響力を持たないというもの。しかし実際には、中国にはその気になれば北朝鮮に対していつでも使える切り札がいくらでもある。

 例えば原油だ。北朝鮮は原油の大部分を中国に頼っている。中国が原油の輸出を止めれば北朝鮮の経済は大打撃を受け、軍の機能は麻痺しかねない。ロシア産に切り替えるにしても現時点での輸入比率は約20%にすぎない。中国がその気になりさえすれば、北朝鮮に対して短期間で大打撃を与えることができる。

 中国は北朝鮮に圧力をかけてより責任ある振る舞いを迫るだけの影響力は持っている。欠けているのは意志だけだ。とはいえ、今回の一件で中国は態度を一変させるだろうか。

 今度こそ中国指導部は、長きにわたって北朝鮮の悪事に手を貸してきた不毛な政策に終止符を打つはずだ、という主張は一見、もっともに感じる。

「水爆保有発言」に激怒

 中国が方針転換する理由として最も説得力があるのは、北朝鮮の33歳の独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が中国の安全保障を脅かしているというものだ。

 北朝鮮は06年の初の核実験以来、着々と核兵器の開発を進化させてきた。中国との国境付近には国連の査察に応じていない核施設が存在し(今回の核実験場は中国から80キロ程度しか離れていない)、チェルノブイリのような事故が起きてもおかしくない。

 北朝鮮の暴挙は中国とアメリカの軍事対立も激化させかねない。北朝鮮の核による挑発を受けて、アメリカは北朝鮮に対する抑止力として東アジアにおける軍事力を強化するに違いない。アメリカにとって東アジアで最も重要な同盟国である日本も、地域の安全保障に一層積極的な役割を果たすよう求められるはずだ。そうなれば中国は自国を封じ込めるための陰謀と見なし、緊張が高まるのは避けられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中