最新記事

北朝鮮

日米韓は「北朝鮮を追い詰めているフリ」など止めるべきだ

国連の制裁には、豊富なウラン資源を持つ独裁国家に核開発を断念させるだけの効力はおそらくない

核開発はやめない これまでに行った制裁では、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の暴走を止めることはできなかった(2015年5月に北朝鮮の朝鮮中央通信〔KCNA〕が公表した写真より) KCNA-REUTERS

 北朝鮮が4度目の核実験を強行したことを受け、国連安全保障理事会は6日、緊急会合を開き、追加措置に向けた作業に着手する方針を表明した。国連の制裁が強化されるのは間違いないだろう。

 ここでひとつの疑問が湧く。国際社会は何故、もっと早くからより徹底的な対北制裁を敷き、核開発を断念させなかったのか。それをしなかったせいで、衝撃波が地球を3周もするような「最終兵器」を金正恩氏が獲得するのだとしたら、まさに悪夢だ。

 この疑問に対する答えは簡単だ。これまでも、国連制裁が不十分だったわけではない。おそらく国連制裁には、北朝鮮に核開発を断念させるだけの力がないのだ。

 そもそも何故、北朝鮮は国連制裁をものともせずに核開発を続けられるのか。その理由のひとつは、北朝鮮には豊富なウラン資源があるからだ。核物質を輸入する必要がないから、国連制裁では遮断できない。

 そしてより大きな理由は、北朝鮮が独裁国家だからだ。かつて中曽根康弘元首相は防衛庁長官在任時、日本の核武装の可能性について極秘裏に調べさせた。その結論は、「技術的には可能だが、国土の狭い日本には核実験場がないのでムリ」というものだったという。

 日本が狭いというなら北朝鮮はもっと狭いが、言論の自由がないので、住民の反対運動など起きようもない。そもそも国連制裁をもたらすような無謀な政権は、民主主義社会でならば巨大なデモを呼び起こし、すぐに倒されてしまうだろう。

 しかし北朝鮮でそんなことをすれば、軍隊に虐殺されるか、政治犯収容所で拷問され処刑されてしまう。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺...北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

(参考文献:国連報告書「政治犯収容所などでの拷問・強姦・公開処刑」

 そして、金正恩体制が核開発を続けるもうひとつの理由として、「止める理由がない」ということが考えられる。

 独裁国家の富は権力者に集まる。国連制裁は確実に北朝鮮経済を苦しめているが、特権階級は比較的打たれ強い。民が苦しんでいても、政権を失う心配もない。それに核開発を放棄しても、米国と仲良くできる可能性はほとんどない。

 ナチス・ドイツのユダヤ人収容所にも匹敵するとされる政治犯収容所を抱えた北朝鮮の首脳と握手することなど、米国の大統領には考えられないだろうし、北朝鮮の独裁者もまた、恐怖政治の中核をなす収容所の清算など不可能だからだ。

 だったら、どうすれば良いのか。

 恐怖政治を否定する民主主義的な政権を、北朝鮮に成立させるのである。そしてそのためには、北朝鮮国民による変革を支援せねばならない。

 それには、膨大な労力とコストがかかる。それを自国民に納得させることは、日米韓などの指導者には至難の業だろう。しかしだからといって、効果のない国連制裁を続けていては、北朝鮮の「核のリスク」はますます大きくなる。

 国際社会はいいかげん、「北朝鮮を追い詰めているフリ」を止めるべきなのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 』(宝島社) 『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、相互関税巡る各国の有意義な提案には耳傾

ビジネス

米国との取引は国益に沿う場合のみ合意、英首相が強調

ビジネス

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収巡り再審査を指示

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P続落、関税巡り乱高下 ト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 9
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中