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かつて日本が受け入れた元ボートピープルたち、「難民鎖国」の今を憂う

シリア難民について20億ドル近くの支援策を決めた安倍首相だが、受け入れの門戸は固く閉ざしたまま

2015年12月4日(金)18時29分

12月4日、シリア情勢の混迷が深まる中、難民受け入れという厳しい課題を突き付けられている日本の姿を、自らの辛い過去と重ね合わせて見つめている人々がいる。写真は、横浜で開催されたスポーツイベントで、バレーボールの練習をする日本生まれのベトナム出身の少年。10月撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)

 シリア情勢の混迷が深まる中、難民受け入れという厳しい課題を突き付けられている日本の姿を、自らの辛い過去と重ね合わせて見つめている人々がいる。ベトナム戦争後、政変の混乱を逃れて祖国を脱出し、過酷な漂流の果てに日本に流れ着いた「ボートピープル」たちだ。

 欧米に比べ、極端に受け入れが少ない日本の「難民鎖国」。その汚名を返上するには、政策はもとより、日本人自身が難民への心を開くべきだ、と彼らは訴える。

 東京近郊で大学職員として働く紀仁(きの・ひとし)さん。一見した風貌はごく普通の日本人だが、話をする時のわずかなベトナム語訛りが、かつて「ボートピープル」として日本にたどりついた過去を物語る。

 ベトナムでは「Ky Tu Duong」という名を持ち、今は日本国籍がある紀さんが日本に来たのは1980年。他の32人とともに、粗末なボートに乗り、戦火に荒れ果てた祖国を後にしたものの、ベトナム沖で漂流。空腹に耐えているところを海賊に襲われ、下着以外のすべてを奪われてしまったという。

 日本はベトナム戦争終結後から2005年までの約30年間、1万1000人以上の難民を受け入れた。しかし、この「門戸開放」はすでに人々の記憶から消えかけており、その後二度と同じような規模で繰り返されることはなかった。

日本の受け入れは先進国で最低水準

 日本には昨年、5000人が難民申請した。しかし、政府が認めたのは、そのうちのわずか11人。約0.2%という受け入れ比率は、経済協力開発機構(OECD)加盟国中で最低水準だ。対照的に、フランスは22%、ドイツは42%を受け入れている。

 内戦のシリアから流れ込む多くの難民への対応に苦慮する国々に対し、安倍首相は20億ドル近くの支援策を決めた。欧州の難民危機は第二次世界大戦後で最悪とさえ言われる。しかし、日本としての受け入れとなると、門戸は事実上閉ざされている。

 人口減少が続いているにもかかわらず、難民問題に消極姿勢を取り続ける日本政府。その背後には、難民救済と言う形であれ、外国人が増えることによる国内の治安への影響などを懸念する声がある。

 今年11月にパリで起きたイスラム過激派による銃撃や自爆攻撃は、日本国内の否定論に拍車をかけた。難民支援への一般的な支持はあるものの、日本ではなお受け入れ拡大に向けた合意作りは難しい。

溶け込みにくい日本社会

「ボートピープル」だった人々は、自分たちを受け入れてくれた日本に感謝の言葉を口にする。2011年の東日本大震災での地震と津波の影響により発生した福島の原発事故のあと、外国人は先を争って日本を離れた。しかし元難民たちはほとんどが逃げなかった、と紀さんは言う。

「外国からの人、(自国に)帰りました。でも私のような難民、ほとんど帰らない。助けてくれたのに、そういう時に逃げること出来ない」。

 しかし、日本の社会に溶け込む上では、数々の困難にも直面した。やはりベトナム難民だった高橋穂愛さん(ベトナム名Hoang Drong Hoai)は、日本で会社に就職した後も言葉のハンディキャップなどを理由に不当に低い評価を受けた経験を持つ。「この人に任せちゃだめ」と目の前ではっきり言われたこともあるという。

 川井万里(ベトナム名Nguyen Van Ry)さんが働く東日本の施設には、心を病んだ元ベトナム難民が暮らしている。「大体みんな日本の社会に入って、会社に入って、いろいろ先輩からいじめられ、ショックを受けて眠れなくなって、障害が出た」と話す。

 カンボジア難民だった伊東久里寿那(Cheth Chan Chrisna)さんはわずか15歳で日本に来た。工場の寮にある共同浴場で一番風呂を使ったことを叱責されたことがある。肌の色が一般的な日本人よりも濃いために、汚いと思われていると感じたという。

 日本語などの定住訓練を半年受けただけで、家族を養うためゴム工場で働き始めなければならなかった。現在43歳の伊東さんは保育園に勤務する。中学や高校に行きたいという思いがかなったのは、結婚して子供ができた後だった。子供たちは今、高校と大学に通っている。

門戸開放は日本のため

 日本政府の支援についてどう思っているか質問すると、伊東さんは少し考えこんで、こう言った。「本当にお世話になりました。でも、もうちょっと面倒をみてくれたらとも思います」。

 紀さんらは、シリアなどからの難民申請者に対し、日本が再び門戸を開くべきだと確信している。苦しんでいる難民たちのためだけでなく、日本のためでもあるという。

「国際社会の要請に対応するために、ある程度はオープンしたほうがいい。とりあえず100人でも、50人でも。絶対にやった方がいい」と紀さんは話す。

*写真を追加して再送します。

 (竹中清、Thomas Wilson 翻訳編集:加藤京子、北松克朗)

[横浜 4日 ロイター]

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