最新記事

イスラエル

ユダヤ人虐殺の責任者はヒトラーではなくパレスチナ人?

パレスチナ人憎しのあまりヒトラーを無罪放免にするねじれた論理

2015年10月22日(木)15時21分
ジャック・ムーア

強硬派 極右の支持基盤を恐れてか、挑発的な発言を繰り返すネタニヤフ首相 Stefan Wermuth--Reuters

 インティファーダ(パレスチナ人の抵抗運動)の脅威に日々直面しているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は20日、エルサレムで開催された世界シオニスト会議で演説し、パレスチナ人指導者がナチスにホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を進言したと主張した。

 アドルフ・ヒトラーを説得してユダヤ人を殺させたのはエルサレムの大ムフティー(イスラム法学者)、ハジ・アミン・アル・フセイニだ、とネタニヤフは言う。

 フセイニ(1974年に死亡)は1941年11月にヒトラーと会談した。当時パレスチナはイギリスの委任統治領だった。この頃ヒトラーはユダヤ人の抹殺を望んでおらず、ただ追放したいと考えていた。そこでハッジ・アミン・アル・フセイニはヒトラーに会い、「あなたが彼らを追い出したら、彼らはみなここ(パレスチナ)に来る」と訴えた。

「では、彼らをどうすればいいのか」とヒトラーが尋ねると、フセイニは「焼けばいい」と答えたという。

「最終的解決」の主要な設計者

 さらに、1920年にテルアビブの南の町ヤッファ(後にテルアビブに併合)で起きたユダヤ人住民襲撃をはじめ、21年と29年に現在のイスラエル領内にある他の地域で起きた襲撃もフセイニの策略だと、ネタニヤフは語った。

 ネタニヤフは過去にも挑発的な発言を繰り返してきた。12年にイスラエル議会で行った演説では、フセイニはいわゆる「ユダヤ人問題の最終的解決」、つまりヨーロッパのユダヤ人を絶滅させるというナチスの計画を策定した「主要な設計者の1人」だと決めつけた。

 パレスチナ解放機構(PLO)のサイブ・エレカト事務局長は本誌宛ての声明で、「ネタニヤフはパレスチナ人を憎悪するあまり、600万人のユダヤ人を虐殺したヒトラーを無罪放免にしようとしている」と、ネタニヤフの歴史認識の矛盾を突いた。

「ネタニヤフ氏はパレスチナ人にホロコーストの責任をなすりつけ、憎むべき極悪なジェノサイドを行ったアドルフ・ヒトラーの責任を不問に付した。国際的な正義を守るため連合軍と共に戦った何千人ものパレスチナ人に代わって、パレスチナ国家はこのような倫理的に弁護の余地のない扇動的な発言を非難する」と、エレカトは記す。

「ナチス政権に抵抗したパレスチナ人の戦いは我々の歴史に深く刻まれている。パレスチナ人はこの歴史を決して忘れないが、ネタニヤフ率いる過激主義の政府は忘れてしまったらしい。ネタニヤフはこの人類の悲劇を政治利用するのをやめるべきだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 6
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中