最新記事

アジア経済

【マニラ発】中国主導のAIIBと日本主導のADBを比べてわかること

2015年10月23日(金)16時25分
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)

 だが、本部が東京に置かれなかったことは、日本政府のADBへの影響を制限するという意味で、ADBが真に国際的な銀行になることに貢献した。一方、AIIBの本部は中国・北京の金融街に位置することがすでに決まっているが、どこまで中国政府の意向に影響されず運営できるかは未知数だ。

ADBには「野党」アメリカがいるが、AIIBはどうか

 日本がADBに大きな影響力を及ぼしていることは言を待たないが、ADBが全くもって「日本の銀行」であるというわけではない。朝日新聞の報道によると、ADBが資金協力した工事などの契約を日本企業が受注した割合は、0.21%(2013年)にすぎず、中国企業の受注率20.9%に遠く及ばない。

 日本とアメリカがそれぞれ出資比率15.7%と15.6%を占め(2014年末現在)、ADBの二大出資国となっている(議決権はそれぞれ12.8%と12.7%)。前アジア開発銀行研究所長、現・東大教授の河合正弘氏によると、アメリカはADBの組織的非効率性を指摘したりと、組織内で長年「野党の役割」を果たしてきたという。さらに、日本はADBを使って独自の目的を達成するというよりは、アジアの国際公共財(筆者注:国際的に利用可能な財やサービスを意味する)を提供してきた、と河合氏は分析している。

 それに対し、中国のAIIBに対する出資比率は30.34%(議決権は26.06%)に上り、現時点で一定の拒否権を確保しているため、「中国の銀行」になるおそれが拭いきれていない。また、途上国・新興国の出資比率はADBで40%以下である一方、AIIBでは70%に達し、ヨーロッパ各国の意見が単独では反映されないため、AIIBの成否を懸念する見方がある。例えば、アフリカ開発銀行は当初、地域内メンバー、つまり途上国にしか開かれていなかったが、運営がうまくいかず、結局多くの先進国を受け入れることになった。

 人事の観点からはどうだろうか。ADBは設立から現在に至るまで、9代とも日本の財務(大蔵)省や日銀の幹部経験者が独占してきた。日本人がこのポストを握り続けてきたことに対して一部に不満や批判はあるが、日本が低所得国向けのアジア開発基金(ADF)に圧倒的な貢献をしてきたことが考慮され、加盟国の間で日本人総裁に対するノーの声は大きくならなかった。同様に、今でも予算・人事を統括するような鍵となる幹部ポストには日本人がついている。

 AIIBは今、世界中で専門の人材をリクルートしており、ADBからAIIBに移る職員もいるようだ。しかし、ADBの人事担当者は「大規模な移動は起きておらず、心配していない」と話す。

運営方法が「20年前と変わらない」ADBの問題点

 1966年の設立後、ADBは最初のプロジェクトを選ぶにあたって1年以上の時間を費やし、タイの産業金融公社に融資することを決定した。この公社は2004年に商業銀行と合併するまで単独で運営を続けており、ADB の融資は少なくとも短期的で利益を度外視したものでなかったことが分かる。対照的に、AIIBは2016年の第二四半期にも融資を開始するという報道があり、そのスピードの速さが際立っている。

 AIIBの初代総裁に選出されている金立群氏は今年9月、最初のプロジェクトが道路や電力セクター等になる可能性を初めて示唆した。中国では、ADBなど既存の多国間開発銀行はプロジェクト実行までのスピードが遅いという批判が根強い。多くのADB職員は自分達の組織が非常に官僚的であることを認めている。あるADBの人事担当者は、「運営の仕方は20年前と変わっていない」と言った。ADBで副総裁として働いたこともある金立群氏は今年4月、シンガポールでフォーラムに出席した際、「AIIBで21世紀型のマネジメントを目指す」と意気込んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ホルムズ海峡通過船舶、停戦後も事実上停滞 追跡デー

ワールド

イスラエルのレバノン攻撃は停戦合意違反、交渉無意味

ビジネス

金融庁、プライベートクレジット問題で実態把握 大手

ビジネス

インタビュー:中東情勢収束のめど立たず、今期業績予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 6
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 7
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 10
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中