最新記事

ミャンマー

ロヒンギャ危機はジェノサイドだ

2015年7月7日(火)19時51分
パトリック・ウィン

■「子供たちを他の集団に強制移動させる」

 今のところロヒンギャにその例は見当たらない。

 ロヒンギャがアジアで最も虐げられた集団のひとつであることは否定できない。だが、これはナチスのホロコーストや旧ユーゴスラビア・ボスニア内戦における民族浄化のようなジェノサイドではない。「規模」が違うからだ。

 2012年の追放運動による死亡者数は、200〜300人と考えられている。それを遥かに上回る数の人々がおそらく、老朽化したボートでの脱出を試み、その結果、命を落とした可能性が高い。正確な数字は把握し難いが、たとえ多かったとしても、数十万、数百万も命が失われた過去のジェノサイドに比べれば、その数はごくわずかに思えるだろう。

問題は犠牲者の数だけではない

 だが、ジェノサイドは必ずしも死者の数で決まるわけではない。集団の絶滅を目指して行う破壊行為が問題だからだ。「ジェノサイドには大量虐殺が伴うという一般の理解は誤解のもとになっている」とスミスは語る。

 ジェノサイドが行われている可能性があると警告するのは「正しい努力だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア副部長、フィル・ロバートソン局長代理は言う。「ロヒンギャに起こっているのは間違いなく民族浄化であり、人道に対する罪だ」

 この状況を変える一番の方法は、国連にジェノサイドが行われていると認めさせることだ。ジェノサイドを放置すれば責任を問われるのは国連だ。そうすれば国連安保理も動かざるを得なくなる。

 だが今は国連は、「ジェノサイド」という言葉の使用をできるだけ避けている。各国政府が行いを正すよう優しく促すのが今の国連流だ。職員はロヒンギャという言葉を使わない。使えばミャンマー政府関係者を激怒させるからだ。

 ミャンマーだけでなく国連にも、ロヒンギャは見えない人々だ。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中