最新記事

ロシア

プーチン核発言が招く軍拡競争と米同盟国の危機感

2015年3月27日(金)12時18分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

非核の戦略兵器は未知数

 次に中距離核ミサイル復活の問題がある。同型のSS20をソ連が70年代半ば、西欧に向けて配備し問題となり、87年に米ソが中距離核戦力全廃条約で完全廃棄を誓った。その余波で今のロシアは中国、北朝鮮、イランなどが保有するだろう核ミサイルを抑止する手段を持たない。アメリカは既に、ロシアが中距離ミサイルを開発・実験中として抗議を繰り返している。極東に配備されれば日本も射程に入る。

 短距離核、すなわち戦術核兵器の問題もある。ロシアは1000〜2000発保有していると推定され、ヨーロッパには米軍の戦術核が約200発、ドイツなど5カ国に配備されている。ドイツは発射要請権を持っており、アメリカが同意すれば実際に使用される。冷戦崩壊後、撤退を求める声が欧州で高まっていたが、これも逆に保持・近代化の方向に進むだろう。

 アジアに目をやれば、中国と北朝鮮が核配備を増やす一方、アメリカの核の傘は薄くなった。既に潜水艦発射の巡航ミサイル「トマホーク」から核弾頭が撤去されたからだ。いま日本への核攻撃を抑止するものは、米軍爆撃機の爆弾、潜水艦発射の弾道ミサイルくらいしかない。日米でミサイル防衛(MD)システムを開発中だが、百発百中でない上に、海上発射の巡航核ミサイルに対処できない。アメリカが開発中の宇宙配備など、非核の戦略兵器の威力は未知数だ。

 70年に核拡散防止条約(NPT)に署名し、核兵器不保持を誓わされた日本は、プルトニウム保有の権利をアメリカから獲得しわずかな抑止手段としているが、原発撤廃が進むにつれ、今後の核抑止力をどうするかを決めないといけない。日米原子力協定は18年には期限を迎える。核の面で抑止力を確保しないと、日本は中国やロシアの「核の威嚇」に弱い国となる。

 一方でプーチンは持ち前の負けん気から核をひけらかすことで、冷戦後閉じていたパンドラの箱を再び開け、自国の立場を悪くしてしまった。アメリカとのむちゃな軍拡競争が命取りになったソ連の亡霊が見える。

[2015年3月31日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

与党劣勢のハンガリー議会選、EUが「干渉」=米副大

ビジネス

イラン戦争でスタグフレーション懸念、FRB難しい舵

ワールド

トランプ氏発言が欧州安保の動き誘発、統合軍創設も視

ビジネス

EIA、ブレント原油「第2四半期に115ドルでピー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 9
    「人間の本性」を見た裁判官が語った、自らの「毒親…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中