汚染水の語られざる現実【後編】
米エネルギー省の民間放射性廃棄物管理局の元責任者レイク・バレットやカリフォルニア大学バークレー校の原子力工学の安俊弘(アン・ジュンホン)教授などは、トリチウム以外の大多数の放射性同位元素がフィルターで除去されれば、薄めた汚染水は安全に放出できる(または蒸発させられる)と論じている。
放出された水は海に流れ込み、汚染物質の濃度は直ちに薄められる。港から0.5キロ以上離れた沖の海水サンプルからは、放射性物質はほとんど検出されていない。
日本政府は汚染水対策への技術的提案について国際社会に助言を求めた。だが、他の汚染された地域における研究を基に、福島のケースに適合するように考慮されたより合理的な放出基準を設定するための勧告を求めたほうが、ずっと役に立つかもしれない。
もちろん、たとえ公衆衛生上の安全性が科学的に証明されても、汚染水の放出に対する国内の反発は消えないだろう。
とりわけ、地元の漁業関係者は当然のことながら不安を覚え、その不安を強く訴えている。福島沿岸の海底では放射性セシウム濃度がなかなか薄まらず、海底に生息する魚類・甲殻類の汚染が懸念されている。さらにはマスコミの偏った報道がたびたび世間を騒がせ、国民の不安に拍車を掛けている。
基準値を上回る放射性セシウムに汚染された魚が発見されたことから、消費者は福島近海の水産物を敬遠している。韓国は、東北地方からの水産物の輸入を全面的に禁止している。
遠く離れた太平洋対岸のカリフォルニアでも──基準値よりもずっと低く、自然界に普通に存在する放射性物質ポロニウムによる被曝量をはるかに下回るとはいえ──大型回遊魚のマグロから微量のセシウムが検出されている。
見過ごされがちな点ではあるが、食品放射能基準値が安全の限界点ではなく、人体の全体的な被曝量を抑えるために導き出された厳しめの数値であることを覚えておくべきだろう。つまり、この基準値は「安全基準」と言うより「安心基準」と呼ぶべきものかもしれない。
2020年の東京オリンピック開催が決定したことで、日本政府はこれまでよりもさらに強いプレッシャーにさらされることとなった。海外における日本のイメージは原発の事故処理というレンズを通して厳しく判断され、汚染水の放出は──その濃度にかかわらず──注視の対象となる。