最新記事

朝鮮半島

韓国がもくろむ時代錯誤の「核武装論」

2013年4月22日(月)16時03分
ミラ・ラップフーパー(国際政治学者)

 韓国内では北朝鮮への食糧支援という人道援助には幅広い支持がある。そのため食糧支援の打ち切りというカードを、韓国政権が容易に切ることができない事情も背景にある。

 核の再配備に対するこうした議論は机上の空論ではない。韓国民の間でも再配備に対する支持は高い。アサン政策研究所の調査では国民の7割近くが賛成している。これは先般の北朝鮮による核実験が理由ではなく、昨年の調査でも同様の結果がみられている。

 だが、果たして戦術核の再配備でアメリカによる「核の傘」は強化されるのだろうか。

 核による抑止力の拡大は冷戦時代を通じて行われてきた。その目的は、同盟国が核による報復を余儀なくされるほどの危機に直面することを防ぐことだ。

 歴史的に見れば、アメリカによるこの抑止力は効果的だったと言える。アメリカの同盟国がこれまで大きな攻撃を受けたことがないのは、単なる偶然ではない。核の抑止力の基本的な考えは、安全保障という同盟国の最大の国益を守ることだ。今のところ、韓国を含めてアメリカの同盟国にそこまでの危険が及んでいるようには思えない。

核は小事のためではない

 問題は、アメリカが同盟国のために戦争をする気がなくなったということではない。むしろ、韓国のような同盟国がそうした大きな危機ではなく、低いレベルのいさかいに直面していることだ。アメリカの「核の傘」は、敵国の核実験を未然に防いだり、同盟国の艦艇や特定の島に対する攻撃をやめさせるためにあるのではない。

 これは米韓同盟に限ったことではない。日中間の尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる問題でも、小さないさかいにおいて核の抑止力の適用範囲をどうするかという議論が出ている。今のところ、韓国のためにアメリカが核を使うかどうかの判断を迫られるというのは非現実的な考えだ。

 しかし中国の台頭や北朝鮮の核とミサイル開発は、小さないさかいをますます表面化させる。そうなると、アメリカの「核の傘」は穴の開いたボロ傘で役に立たないと同盟国たちは心配するだろう。その不安を払拭するために核の再配備をすれば、韓国は安心するかもしれない。ただ、それでも核の抑止力の適用範囲をどうするかという問題は残る。

 核の再配備に対する韓国の声は、アメリカが有事の際に守ってくれるという確証を得たい願望の表れだ。そうした韓国の思いに応えるために、小さないさかいは最優先に対処されるべきだ。放置すれば深刻な危機が起こった際に同盟関係にひびが入りかねず、韓国の不安感も悪化させる。「核の傘」の効力に対する疑惑が大きくなれば、韓国が独自に核開発する事態にも発展しかねない。

 それでも、心配は無用かもしれない。米韓同盟は今年60周年を迎える。これまでも北朝鮮による3度の核実験やミサイル発射問題、韓国海軍艦艇への攻撃や延坪島(ヨンピョンド)への砲撃など、多くの問題を乗り越えながら同盟関係を維持してきた。しかも95%の韓国民は米韓同盟を支持している。これ以上高い支持は望めないほどだ。

 アメリカと韓国は、小さないさかいを防ぎ、抑止力を有効に働かせる新たな方法を考え出すべきだ。戦術核の再配備などは冷戦時代のソリューション、いま必要なのは21世紀のソリューションだ。

From the-diplomat.com

[2013年3月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ケネディ元米大統領の孫、下院選出馬へ=米紙

ビジネス

GM、部品メーカーに供給網の「脱中国」働きかけ 生

ビジネス

日経平均は反発、景気敏感株がしっかり TOPIX最

ビジネス

オリックス、純利益予想を上方修正 再エネの持ち分会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中