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中東エジプト新政権はイスラエルの敵なのか
中東唯一の盟友だったエジプトにイスラム政権が誕生し、孤立感と危機感を強めるイスラエル
不安材料 アラブの春から生まれたムルシ大統領はとこまでイスラム原理主義なのか Asmaa Waguih-Reuters
エジプト大統領選の決選投票では、イスラム主義組織ムスリム同胞団が公式の開票結果を待たずに、同派の推すムルシ候補が軍人出身のシャフィク候補を破ったとする勝利宣言を出した。この前のめりな姿勢に、イスラエルは警戒を強めている。
ムルシが大統領になっても、当面はイスラエルを攻撃したり、平和条約を破棄したりすることはなさそうだ。だが、イスラエルを孤立化に追い込み、ガザ地区のイスラム原理主義組織ハマスを支援し、ムバラク政権時代に改善された両国関係を悪化させる恐れは大いにあると、イスラエル政府筋は見ている。
軍部がムルシの大統領就任を認めたとしても、その前途には難問が山積している。まずは革命の混乱で崩壊した経済の再建が急務となる。
それだけではない。シナイ半島の治安回復も急を要する。今のシナイ半島は無法地帯と化し、パレスチナ各派の武装勢力がイスラエル側に砲撃などを繰り返しているからだ。
またムルシが国内の混乱を収拾できず、有効な貧困対策を打ち出せない場合は、国民の不満をそらすためにアラブ諸国の常套手段に走る可能性が高いと、イスラエル当局は考えている。つまり、イスラエルを諸悪の根源に仕立てることだ。
「社会・経済問題に即効性のある解決策を打ち出せなければ、ムルシはイスラエルとの関係見直しを持ち出す。大衆の支持を得るには、それが最も手っ取り早いからだ」と、元エジプト駐在イスラエル大使のエリ・シャケドは言う。
銃撃でトルコとも疎遠に
昨年2月にムバラク政権が崩壊したときから、イスラエルは79年に締結した平和条約の行方に気をもんできた。エジプトはキャンプデービッド合意でシナイ半島の返還と引き換えに、アラブ諸国では初めてイスラエルとの関係正常化に踏み切った。
ムバラクはイスラエルと安全保障上の強固な関係を維持し、ここ数年は反イスラエルに傾く世論を無視して平和条約を堅持してきた。一方のムスリム同胞団は、イスラエル側との接触さえ拒んできた。
ムルシは選挙戦を通じて、前政権から引き継ぐ国際的な合意は尊重すると約束してきた。キャンプデービッド合意もその1つで、これを破棄すればアメリカ(エジプトに年間20億ドル近い援助をしている)との関係がこじれるのは必至だ。
「エジプトの人々を脅かし、エジプトを攻撃しない限り、どの国にも宣戦布告しないし、どの国との関係も断ち切るつもりはない」。ムルシは昨年11月、テレビでそう語っている。
しかし、実際に会って話した人たちによると、ムルシはイスラエルとアメリカに対して非常に挑発的な物言いをすることがある。ムルシは80年代にアメリカに留学して工学の博士号を取得、後にカリフォルニア州立大学で教えた経験もある。その頃アメリカ人の「道徳的腐敗」を目の当たりにしたと、好んで口にするという。
イスラエル側も、仮に平和条約を維持できたとしても、ムルシとの関係はぎくしゃくすると覚悟している。10年にガザ支援船の銃撃でトルコとも疎遠になったイスラエルは、今や中東で完全に孤立しつつある。
「中東は姿を変えた。宗教色、イスラム色、そして残念ながらイスラエルへの憎悪を強めつつある」と嘆くのは、ムバラクと親しかったイスラエルのビニヤミン・ベンエリエゼル元国防相だ。「経済の回復を待ったなしで求められている新大統領に、イスラエルと戦争を始めるような暇はないだろうに」
[2012年7月 4日号掲載]