最新記事

東アジア

北朝鮮「新兵器」は中国製か

2012年6月7日(木)12時53分
ジョエル・ウスナウ(プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共・国際関係大学院フェロー)

 とはいえ、軍暴走説は中国の文民と軍の緊張関係を過大評価している。ランド研究所のアンドルー・スコベルが指摘するように、「中国の軍と共産党の間には緊密で重層的な結び付きがあり、メンバーも互いに重なり合っている」とみるべきだ。

 もし北朝鮮に弾道ミサイル技術を提供するとすれば、政治的にも戦略的にも極めて大きな意味を持つ。最高指導部の同意なしに、決定が下されるとは考えにくい。

 2つ目の可能性は、北朝鮮に関して中国が二枚舌を使っているというものだ。つまり、公には核拡散防止を重んじる姿勢を取り、陰では北朝鮮を違法に支援しているという可能性である。

 中国にとっては、ひそかに北朝鮮を支援したい戦略上と政治上の理由がある。

 戦略面では、アメリカのオバマ政権がアジア・太平洋地域を重視する安全保障政策に転換していること。中国は隣国である北朝鮮との結束を強化したいはずだ。アメリカの対中包囲網(と、中国は感じている)を押し返したいと考えているかもしれない。

 国内政治の面では、北朝鮮寄りの政策を取れば、政府批判を和らげられるというメリットがある。NATO(北大西洋条約機構)のリビア介入を容認するなど、中国政府がアメリカの意向に従い過ぎているという批判が国内で頭をもたげているのだ。

 それに中国国内には、歴史上、中国の「属国」である北朝鮮の問題にアメリカが首を突っ込み過ぎているという不満がある。北朝鮮への支援には、そうした不満に応える意味もある。

「タカ派増長」にも好材料

 理由はともかく、今回の弾道ミサイル発射台問題からうかがえるのは、中国で対外政策における穏健派の発言力が弱まっているという好ましくない兆候だ。

 中国の学者の間では、親米的と受け取られかねない言動をしづらくなっている。官僚機構の内部では、比較的穏健な外務省への風当たりが強まっている。中国のナショナリストの中には、中国外務省が国益よりアメリカの国益を重んじていると決め付け、「裏切り省」と呼ぶ人たちまでいる。

 中国で穏健派の発言力が弱まり、それに反比例してタカ派の力が増している状況は、国際協調に悪影響を及ぼしかねない。北朝鮮の核問題では、その影響が如実に表れるだろう。

 もし、中国が北朝鮮問題で二枚舌を使っていることが確認されれば、北朝鮮の核問題などの解決を目指す6カ国協議がダメージを被ることは避けられない。さらには、北東アジアにおける多国間の安全保障協力体制づくりという長期的な目標に向けた歩みも足を引っ張られるだろう。

 もっとも、好材料がまったくないわけではない。中国と北朝鮮の関係緊密化が浮き彫りになれば、北朝鮮に対して実効的な影響力を持っていないという中国政府の主張を覆す材料になり得る。

 ブラジルやトルコ、インドなどの有力新興国も含めて世界の多くの国々に、「中国はもっと北朝鮮に圧力をかけ、核拡散防止の国際ルールに従わせよ」という主張を売り込む好機として、アメリカ政府は今回の一件を生かすべきだ。中国で穏健派の発言力が弱まっている兆候が今回のミサイル発射台問題からうかがえる。

From the-diplomat.com

[2012年5月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、巡航ミサイル発射訓練を監督=KC

ビジネス

午前の日経平均は反落、需給面での売りで 一巡後は小

ビジネス

利上げ「数カ月に1回」の声、為替の影響に言及も=日

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中