北朝鮮「新兵器」は中国製か
とはいえ、軍暴走説は中国の文民と軍の緊張関係を過大評価している。ランド研究所のアンドルー・スコベルが指摘するように、「中国の軍と共産党の間には緊密で重層的な結び付きがあり、メンバーも互いに重なり合っている」とみるべきだ。
もし北朝鮮に弾道ミサイル技術を提供するとすれば、政治的にも戦略的にも極めて大きな意味を持つ。最高指導部の同意なしに、決定が下されるとは考えにくい。
2つ目の可能性は、北朝鮮に関して中国が二枚舌を使っているというものだ。つまり、公には核拡散防止を重んじる姿勢を取り、陰では北朝鮮を違法に支援しているという可能性である。
中国にとっては、ひそかに北朝鮮を支援したい戦略上と政治上の理由がある。
戦略面では、アメリカのオバマ政権がアジア・太平洋地域を重視する安全保障政策に転換していること。中国は隣国である北朝鮮との結束を強化したいはずだ。アメリカの対中包囲網(と、中国は感じている)を押し返したいと考えているかもしれない。
国内政治の面では、北朝鮮寄りの政策を取れば、政府批判を和らげられるというメリットがある。NATO(北大西洋条約機構)のリビア介入を容認するなど、中国政府がアメリカの意向に従い過ぎているという批判が国内で頭をもたげているのだ。
それに中国国内には、歴史上、中国の「属国」である北朝鮮の問題にアメリカが首を突っ込み過ぎているという不満がある。北朝鮮への支援には、そうした不満に応える意味もある。
「タカ派増長」にも好材料
理由はともかく、今回の弾道ミサイル発射台問題からうかがえるのは、中国で対外政策における穏健派の発言力が弱まっているという好ましくない兆候だ。
中国の学者の間では、親米的と受け取られかねない言動をしづらくなっている。官僚機構の内部では、比較的穏健な外務省への風当たりが強まっている。中国のナショナリストの中には、中国外務省が国益よりアメリカの国益を重んじていると決め付け、「裏切り省」と呼ぶ人たちまでいる。
中国で穏健派の発言力が弱まり、それに反比例してタカ派の力が増している状況は、国際協調に悪影響を及ぼしかねない。北朝鮮の核問題では、その影響が如実に表れるだろう。
もし、中国が北朝鮮問題で二枚舌を使っていることが確認されれば、北朝鮮の核問題などの解決を目指す6カ国協議がダメージを被ることは避けられない。さらには、北東アジアにおける多国間の安全保障協力体制づくりという長期的な目標に向けた歩みも足を引っ張られるだろう。
もっとも、好材料がまったくないわけではない。中国と北朝鮮の関係緊密化が浮き彫りになれば、北朝鮮に対して実効的な影響力を持っていないという中国政府の主張を覆す材料になり得る。
ブラジルやトルコ、インドなどの有力新興国も含めて世界の多くの国々に、「中国はもっと北朝鮮に圧力をかけ、核拡散防止の国際ルールに従わせよ」という主張を売り込む好機として、アメリカ政府は今回の一件を生かすべきだ。中国で穏健派の発言力が弱まっている兆候が今回のミサイル発射台問題からうかがえる。
From the-diplomat.com
[2012年5月 2日号掲載]