最新記事

日中関係

尖閣問題は日中激突時代のプレリュード?

2010年10月13日(水)17時30分
ジョナサン・アダムズ(ジャーナリスト)

 ゴールドスタインによれば、中国はエンジン付き漁船の数を約20万隻に減らしたい意向だという。乱獲により、近海の漁業が「崩壊寸前」だからだ。その半面で、中国政府は補助金を支給して遠洋漁業を奨励している。

「(東アジアにおける)漁船と取り締まり機関の活動は、一触即発の領有権紛争の波乱要因の1つ」だと、ゴールドスタインは書いている。「不幸なことに、漁業をめぐる緊張が対立を過熱させて、軍事紛争を引き起こす危険がある」

日本にこわもて通す中国

 日本には海上保安庁と海上自衛隊がある。海上自衛隊は名前こそ「海軍」と称していないが、東アジアの海軍の中では最も充実した装備を有し、訓練も行き届いていると見なされてきた。

 しかし、中国に追い上げられている。中国海軍は世界でも指折りのペースで近代化を推し進めており、規模の面では既にアジア最大になっている。米国防総省によれば、中国の擁する攻撃潜水艦は60隻以上、駆逐艦とフリゲート艦は75隻以上。このほかに空母の配備計画も進められている。

 これに対して、日本の潜水艦の数はわずか18隻(中国海軍の軍備増強に対応するために配備数を増やす予定だが)。駆逐艦とフリゲート艦に相当する護衛艦の数は50隻程度だ。

 中国の潜水艦は予想外の海域に姿を現し、日本の近海でも高度な軍事演習を大々的に行っている。中国は軍事演習を通じて、「臆することなく勢力圏の拡大を目指し、新しい海域に乗り出していく意向を近隣諸国にはっきり示した」と中国軍の事情に詳しい国際戦略研究所(ロンドン)のアナリスト、ゲーリー・リーは4月に香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストに述べている。

 軍事面だけでなく外交面でも、中国は日本にこわもてで接してきた。06年に小泉純一郎首相が退くと、小泉より親中的な首相が続いて日中関係は改善した。08年には、東シナ海のガス田の共同開発で合意した(ガス田は両国の排他的経済水域が重なり合う海域にある)。

 しかしその後、中国は合意を条約に格上げすることに消極的な姿勢を取り続けてきたと、ジャーナリストのラムは言う。「日本側によれば、日中間の交渉は行き詰まっている」

対中融和策を望む産業界

 さまざまな理由により、日中間で深刻な軍事対立が起きる可能性は乏しい。なかでも最も重要な理由は、両国間の経済的結び付きが過去になく強まっていることだ。

 中国がアメリカを抜いて日本の最大の貿易相手国になったのは、07年。それ以降、日中の経済関係は深まる一方だ。日本政府の統計によれば、10年上半期の日中間の貿易高は史上最高の1400億ドル近くに到達。前年同期比で34・5%増の数字である。

 日本の対中輸出は中国の対日輸出を上回るペースで拡大している。国内の消費が活発になるに伴い、中国は「世界の工場」としてだけでなく、「世界の市場」としても重要性を増している。とりわけ、世界経済危機対策として中国政府が実施した5900億ドル規模の景気刺激策では、白物家電やテレビの購入にふんだんな補助金を支給している。これが中国市場での日本製品の需要をさらに高めている。

 このような事情を考えると、日本としては現在の対立を迅速に、そしてなるべく中国の意向に沿う形で解決することが得策なのかもしれない。

「(日本では産業界を中心に)中国に強硬な態度を取らず、もっと融和的な態度を取るべきだと政府に求める声が強い」と、ラムは言う。「中国が日本を必要とする以上に、日本が中国を必要としていると言う人たちもいる」

 最大のお得意先を相手に、些細な問題でいざこざを長引かせることは、誰しも避けたいだろう。

GlobalPost.com特約)

[2010年9月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中