尖閣問題は日中激突時代のプレリュード?
ゴールドスタインによれば、中国はエンジン付き漁船の数を約20万隻に減らしたい意向だという。乱獲により、近海の漁業が「崩壊寸前」だからだ。その半面で、中国政府は補助金を支給して遠洋漁業を奨励している。
「(東アジアにおける)漁船と取り締まり機関の活動は、一触即発の領有権紛争の波乱要因の1つ」だと、ゴールドスタインは書いている。「不幸なことに、漁業をめぐる緊張が対立を過熱させて、軍事紛争を引き起こす危険がある」
日本にこわもて通す中国
日本には海上保安庁と海上自衛隊がある。海上自衛隊は名前こそ「海軍」と称していないが、東アジアの海軍の中では最も充実した装備を有し、訓練も行き届いていると見なされてきた。
しかし、中国に追い上げられている。中国海軍は世界でも指折りのペースで近代化を推し進めており、規模の面では既にアジア最大になっている。米国防総省によれば、中国の擁する攻撃潜水艦は60隻以上、駆逐艦とフリゲート艦は75隻以上。このほかに空母の配備計画も進められている。
これに対して、日本の潜水艦の数はわずか18隻(中国海軍の軍備増強に対応するために配備数を増やす予定だが)。駆逐艦とフリゲート艦に相当する護衛艦の数は50隻程度だ。
中国の潜水艦は予想外の海域に姿を現し、日本の近海でも高度な軍事演習を大々的に行っている。中国は軍事演習を通じて、「臆することなく勢力圏の拡大を目指し、新しい海域に乗り出していく意向を近隣諸国にはっきり示した」と中国軍の事情に詳しい国際戦略研究所(ロンドン)のアナリスト、ゲーリー・リーは4月に香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストに述べている。
軍事面だけでなく外交面でも、中国は日本にこわもてで接してきた。06年に小泉純一郎首相が退くと、小泉より親中的な首相が続いて日中関係は改善した。08年には、東シナ海のガス田の共同開発で合意した(ガス田は両国の排他的経済水域が重なり合う海域にある)。
しかしその後、中国は合意を条約に格上げすることに消極的な姿勢を取り続けてきたと、ジャーナリストのラムは言う。「日本側によれば、日中間の交渉は行き詰まっている」
対中融和策を望む産業界
さまざまな理由により、日中間で深刻な軍事対立が起きる可能性は乏しい。なかでも最も重要な理由は、両国間の経済的結び付きが過去になく強まっていることだ。
中国がアメリカを抜いて日本の最大の貿易相手国になったのは、07年。それ以降、日中の経済関係は深まる一方だ。日本政府の統計によれば、10年上半期の日中間の貿易高は史上最高の1400億ドル近くに到達。前年同期比で34・5%増の数字である。
日本の対中輸出は中国の対日輸出を上回るペースで拡大している。国内の消費が活発になるに伴い、中国は「世界の工場」としてだけでなく、「世界の市場」としても重要性を増している。とりわけ、世界経済危機対策として中国政府が実施した5900億ドル規模の景気刺激策では、白物家電やテレビの購入にふんだんな補助金を支給している。これが中国市場での日本製品の需要をさらに高めている。
このような事情を考えると、日本としては現在の対立を迅速に、そしてなるべく中国の意向に沿う形で解決することが得策なのかもしれない。
「(日本では産業界を中心に)中国に強硬な態度を取らず、もっと融和的な態度を取るべきだと政府に求める声が強い」と、ラムは言う。「中国が日本を必要とする以上に、日本が中国を必要としていると言う人たちもいる」
最大のお得意先を相手に、些細な問題でいざこざを長引かせることは、誰しも避けたいだろう。
(GlobalPost.com特約)
[2010年9月22日号掲載]