最新記事

セキュリティ

産業サイバー兵器スタックスネットの防ぎ方

産業インフラを脅かすコンピューター・ウイルスが、どこにでもあるUSBメモリを介して感染を広げている

2010年10月6日(水)18時33分
ファーハド・マンジョー

運び屋 USBメモリを見るとパソコンに差し込みたくなる人間の習性を利用してウイルスは重要なシステムに入り込む Rick Wilking-Reuters

 ITセキュリティの専門家に「スタックスネット」について語ってもらうのは、芸術評論家にモナリザの魅力を解説してもらうようなもの。サイバー安全保障のプロたちは、この新種のコンピュータウイルスに畏敬の念を抱いている。

 6月に発見されて以降、世界中に感染が拡大しているスタックスネットは、かつて見たことがないほど洗練されたコンピューターウイルスだ。世界中の専門家が必死で暗号の解読に挑んでいるが、このウイルスが作成された真の目的は今もわかっていない。非常に巧妙に作り込まれているため、アメリカかイスラエルがイランの核開発プログラムを阻止するために作成した「サイバー兵器」ではないかと考える専門家も多い。

 スタックスネットを「兵器」と見なすべきなのは、発電所やパイプライン、通信インフラ、空港や船舶といった産業用システムに潜入し、密かにプログラムを改ざんできる初のコンピュータウイルスだから。イランの原子力発電所も攻撃を受けた。複数の従業員のパソコンが感染したという。ドイツの多国籍企業シーメンスが開発したソフトウエアを使用している少なくとも14カ所の工場でも感染が確認されている。

 専門家によれば、スタックスネットの作成には数カ月から数年を要し、産業用システムに詳しい人物が多数関与した可能性が高い。標的に到達するために、ハッカーはしばしば、ウインドウズなどに潜むセキュリティー上の「穴」を探すが、スタックスネットの優秀な作成者が見つけたバグは一つだけではなかった。

インターネットから隔離してもだめ

 スタックスネットは、これまで知られていなかったセキュリティー上の4つのバグを利用してウインドウズマシンに潜入する。台湾のコンピュータ企業2社から盗んだ暗号化の証明書を使い、ウイルスに「署名」することも可能。おかげで、スタックスネットは合法的なウインドウズ用ソフトになりすますことができる。

 ただし、作成者らの優秀な頭脳以上に興味深いのは、人間がここまで愚かだと彼らが気がついた点だ。産業用システムはサイバー攻撃を避けるため、ウイルスが自在に入り込めるインターネットなどの危険なネットワークから物理的に切り離されていることが多く、従業員の協力がなければシステム内部に潜入できない。

 スタックスネットの開発者は、万全のセキュリティー対策を誇るシステムにウイルスを侵入させて、効率よく感染を広げるための完璧な「運び屋」を見つけた。一見、何の害もなさそうなUSBメモリだ。

 過去数年の大規模なサイバー攻撃でも大抵の場合、USBメモリが使われていた。昨年、世界中で莫大な数のコンピュータに感染したワーム型ウイルス「コンフィッカー」は、USBメモリを介してフランス海軍や英マンチェスター市当局などに被害をもたらした(マンチェスター市は一時的に駐車違反の切符を発券できなくなった)。

 今年8月にはウィリアム・リン米国防副長官が、米軍が2年前に「エージェント・BTZ」と呼ばれるウイルスの攻撃を受けたことを明かした。「感染したUSBメモリが、中東の米軍基地で軍のノート型パソコンに挿入された」のが引き金だっだという。

 2008年には、スペインの格安航空会社スパンエアの中央コンピュータシステムが、USBメモリを介して侵入したウイルスに攻撃された。そのせいで航空機の不具合をモニタリングするコンピュータの速度が遅くなり、スペイン史上最悪の飛行機事故(マドリードの空港で航空機が炎上し、153人が死亡)の一因となったとされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 9
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 10
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中