最新記事

金融危機

アイスランド首脳の次はブッシュ弾劾?

08年の金融危機時の「職務怠慢」でアイスランド前首相が弾劾裁判へ。ブッシュやグリーンスパンも同じ目にあう可能性はあるのか

2010年10月4日(月)18時45分
ジョシュア・キーティング

戦犯? グリーンスパン(手前)とブッシュ(右)、ディック・チェイニー前副大統領(中央)に法的責任はあるのか Win McNamee-Reuters

 先週のアイスランド議会の決定は、世界を驚かせた。08年の金融危機の際の職務怠慢を理由に、ゲイル・ハーデ前首相を弾劾裁判にかけることを賛成多数で決めたのだ。政府の調査によると、ハーデ政権は当時、金融機関の崩壊が経済全体に及ぼすダメージを限定する機会をいくつも逃したという。

 もし有罪判決が下れば、ハーデは最長で2年間、刑務所に収監される可能性がある。ここで自然と浮かんでくる疑問は----アメリカの政府当局者たちが金融危機とその後の景気後退を招いた罪に問われることはないのか。

 監督官庁の不適切な判断や監視の甘さが金融危機を引き起こした直接の原因だと立証されたとしても、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領やアラン・グリーンスパンFRB(連邦準備理事会)議長はあまり心配する必要がなさそうだ。

 アイスランドの法律では、閣僚が国に害を及ぼす行動を取った場合だけでなく、適切な行動を取らずに国に害を及ぼした場合にも刑事責任を問うことができる(約1世紀前に制定されたこの法律が適用されるのは、今回が初めてだが)。しかしアメリカにはそのような法律がない。

民事でも免責特権に守られて

 では民事訴訟ではどうか。アメリカの連邦法によれば、政府職員が職務遂行の過程で取った行動に関しては法的に免責されるものとされているので、賠償を命じられることはないだろう。例外は、「明確に確立されている法規や、理性的な人物であれば当然知っているべき憲法上の権利」を承知の上で侵した場合だけ。つまり、政府職員が金融機関と共謀して投資家を騙したのでない限り、責任は問われないというわけだ。

 とはいえ、この先変わる可能性はある。有罪判決を受けたテロリストのホセ・パディヤは09年1月、憲法で認められている人権を侵害されたとして、ジョン・ユー元米司法省法律顧問を訴えた。パディヤによれば、ユーは司法省の内部文書で、アメリカ国民であるパディヤを敵国の戦闘員と認定すべきだと指摘。別の内部文書では、身柄を拘束した敵国戦闘員に対して「強化された尋問手法」を用いることを正当化したという。

 ユーは、政府職員の免責特権を理由にパディヤの訴えを門前払いにすべきだと裁判所に主張。しかしカリフォルニア州の連邦地裁は、ユーの主張を退けた(現在、上級審で審理中)。

 ただし、パディヤが賠償金を受け取るためには、ユーが誤った判断を下したと立証するだけでは十分ではない。ユーが誰の目にも明らかな憲法上の権利を故意に、あるいは無能ゆえに踏みにじったと立証しなければならない。

 政治家や官僚に刑事責任を問うのは、それに輪をかけて難しい。独特の法律があるアイスランドはあくまでも例外だ。アイスランドは金融危機で多くの国の政権が相次いで倒れる先駆けになったが、ハーデ前首相に続いて世界の元首脳が続々と被告人席に送り込まれることはないだろう。

Reprinted with permission from FP Passport, 4/10/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中