タイ動乱は「内戦」に発展するか
治安部隊が赤シャツ隊に寝返る?
赤シャツ隊を「水牛」と呼ぶなどの侮辱や、「田舎の有権者は教育水準が低いから、腐敗した政治家に簡単にだまされる」という政府寄りのコラムニストらの主張も、赤シャツ隊の恨みを増幅させている。地方出身者が多い「赤シャツ隊にとっては、彼らの世界や生活を拒絶する発言だ」と、ヒュイソンは言う。さらに、現首相とその側近を「殺人者であり暴君」だとあざ笑うデモの指導者の言葉も、貧困層の怒りに油を注いでいる。
では、軍や政治家はなぜ武力でデモを鎮圧しないのか。赤シャツ隊は、多くの警官や兵士が自分たちの活動に共感していると主張する。兵士がデモ隊側に寝返るのではないかという疑念も、内戦勃発のシナリオの信ぴょう性を高めるのに一役買っている。
実際、軍や警察内部に赤シャツ隊支持者がいるのは事実だと、フェラーラは言う。ただし、政治的イデオロギーとは関係なく、あと1年ももたないかもしれない政権のために、市民を殺すのは嫌だと考える兵士も多い。
反政府勢力の取り締まりに関する上官の指示に従わないよう治安部隊内の支援者に呼びかけることで、赤シャツ隊は治安部隊の内部分裂の一因をつくってきた。4月10日に行われたデモ隊の強制排除(バンコクでは過去18年間で最大の死傷者が出た)では、兵士はデモ隊に発砲したものの、その後逃げ出して作戦は失敗。軍はデモ隊がライフルを奪うのを見逃し、6台の武装車を捨てて立ち去った。
「兵士を恐れる必要はない」と、バンコク郊外の行商人で赤シャツ隊に参加する33歳のサンティ・サラタイは言う。「政府が恐ろしい発表をすればするほど、より多くの人間が(赤シャツ隊に)加わる。兵士はわれわれを攻撃できるほど勇敢ではない」
バンコクを越えて地方にも飛び火
これが内戦でないのなら、一体何と呼べばいいのか。都市部と地方の分断が一段と悪化し、暴力的なデモ行為が散発的に発生しているのが実態だ。
地方住民と都市部の労働者は、新たな総選挙が行われるまでデモを続けるだろう。だが、彼らが支持する政党が選挙で勝利したとしても、今度は現政権の支持層が似たようなデモを繰り広げて国を麻痺状態に陥らせるかもしれない。
軍や政府が恐れるのは、選挙のために赤シャツ隊の要求を受け入れることで、デモ参加者を集めさえすれば政権に影響を及ぼせるという危険な前例が生まれること。「タイ社会にさらなる憎しみと分断が生じれば、内戦に発展しかねない」と、地元紙マテチョンは指摘する。「互いを傷つけ、互いを信頼せず、社会の傷は深まる一方だ」
対立はすでにバンコクを越えて、北部の州にも飛び火しており、警察や行政のトップが反政府勢力への支持を公言している。先週には、軍需品を積んだ列車が地元住民によって止められた。デモ隊の新たな取り締まりに、この武器が使われることを懸念したからだ。住民がピックアップトラックで列車の行く手を阻んでも、地元当局は何の手も打とうとしなかった。
「地方でのこうした動きは長い将来に渡ってアピシット政権を悩ましそうだ」と、ヒュイソンは言う。「列車の強奪も道路の封鎖も、電力供給やダム、燃料、道路の破壊もすべて(将来起こりうると)話題になっている」
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