最新記事

ウクライナ

「オレンジ革命の悪役」勝利が意味するもの

ウクライナの貴い民主主義で大統領に選ばれた親ロシア派のヤヌコビッチは、有権者の期待に応えるか、あるいは悪役に戻るのか

2010年2月10日(水)18時22分
アン・アップルボム

悪役復活 ヤヌコビッチと支持者(決選投票前の2月2日)
Gleb Garanich-Reuters

 どんな革命も反革命運動を引き起こすもの。1789年のフランス革命の後にはナポレオンが登場し、君主制を復活させた。1917年のロシア革命後は社会主義に反対する人々の反乱が起こり、内戦状態に突入した。

 2月7日に行われたウクライナ大統領選の決戦投票では、ビクトル・ヤヌコビッチ前首相がユリア・ティモシェンコ首相に勝利した。少なくとも今のところ、これは反革命というほどのものではない。

 すでにお忘れの人のためにおさらいしておくと、ヤヌコビッチは2004年のオレンジ革命の悪役だった。服役の過去を持つ元悪党で元共産主義者のヤヌコビッチは、公然とロシア政府の支援を受けてこの年の大統領選を戦い、選挙結果まで不正に操作しようとした。

 数週間にわたり市民が抗議行動を繰り広げたオレンジ革命によって、ヤヌコビッチは真の勝者ビクトル・ユーシェンコが大統領の座に就くことを認めた。それはソ連崩壊後のウクライナにおける、初の民主的選挙だった。

 2010年の今では、状況ががらりと変わっているようだ。ユーシェンコは国民をひどく失望させた。厳しい景気後退の波がウクライナを襲い、多くの重要な決定が進まないままだ。政府は土地の私有化や、ソ連時代から続く補助金の撤廃に手をつけられずにいる。

 国内を東西に二分する対立は残ったままだ。事態の悪化とともに政治家たちは仲間割れを始め、改革は頓挫。貨幣価値も半減した。

勝者が予想できなかった驚き

 たった一つ失われずに来たものは、民主主義のプロセスだ。今回の大統領選で何より注目すべきなのは、どちらが勝つのか本当に予想がつかなかったことだ。対照的にロシアの選挙では、ずっと前から勝者が決まっているのになぜわざわざ選挙をするのか不思議なくらいだ。

 オレンジ革命から6年経って、ウクライナの政治風土は自由で予測不可能、そして面白いものになった。ロシアで活動を阻まれた著名ジャーナリストたちも、今ではウクライナの首都キエフに活躍の場を移しているほどだ。「ロシア政治とウクライナ政治の違いは、墓場と混沌の違いに等しい」と、あるジャーナリストはニューヨーク・タイムズに語った。

 この混沌の世界で最大の利益を手にしたのは誰か? 元悪役のヤヌコビッチだ。オレンジ革命後に行われた2回の議会選挙と1回の大統領選挙で、彼は全勝している。

 ウクライナ国民は非論理的な人々ではない。民主主義の唯一最大の利点は、民衆が気に入らない指導者を退場させられること。「オレンジ」の仲間たちが期待の改革に失敗したとわかり、ウクライナ国民は一票の力を最大限に行使して彼らを政権から追い落とした。民主主義国家では当然の展開だ。

 これから試されるのは、ヤヌコビッチが自分を選んでくれた国民の意思を尊重し、将来にわたって民主的な選挙が行われることを保証するかどうかだろう。

 いずれヤヌコビッチが選挙に負けて大統領の座を明け渡すことになれば、彼はオレンジ革命の精神を尊重したことになる。もしも彼が得票を操作し、反対派を脅し、ジャーナリストを殺害して、任期を過ぎても大統領職に留まろうとしたら、私たちは「反革命」の勃発を知ることになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

機械受注11月は前月比-11%、20年4月以来の大

ビジネス

米国のM&AとIPO、今年は小売りや消費財で案件増

ビジネス

FRB、パンデミックで内部対立と独立性懸念が浮上=

ビジネス

マルチ・スズキ、インド新工場に39億ドル投資へ=州
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中