最新記事

中国

グーグルを追い詰めたサイバー企業スパイ

軍事目的で培われた中国のサイバースパイ技術はすでに経済分野でも広範囲に使われている

2010年1月15日(金)17時53分
ジョシュ・ロギン

訓練中? 安徽省内の基地にあるネットカフェでインターネットを操作する中国軍兵士(05年) CDIC-Reuters

 中国からの撤退をちらつかせるグーグルの主張を読むと、最近の中国発のサイバー攻撃と人権活動家の迫害の片棒を担がされたことへのグーグルの怒りがすべてと思うかもしれない。

 だがネットの専門家と中国の専門家はともに、より大きな問題について指摘している。すなわち中国政府が軍事的なサイバースパイ戦術を企業対象に流用しており、今やそれがかなり広範囲に使われている、という問題だ。外国企業にとって根本的に不平等なビジネス環境に加え、中国のサイバースパイから受ける損害を考えれば、グーグルのような企業がリスクを考慮して撤退を考えても無理はない。

「問題は単なるサイバー攻撃や人権問題をはるかに超えている」と、中国インターネットの専門家ジェームズ・マルベノンは言う。「外国企業が中国で事業展開するのはますます難しくなっている。特にイノベーション関連企業にとってはそうだ」

 グーグルの声明にあるように、他にも多くの企業がサイバー攻撃の標的になっている。マルベノンによれば、グーグルの調査の中でサイバー攻撃を受けたとされている34社はほとんどが中国と取引したり、中国国内で事業を行っているシリコンバレーのハイテク企業。国家権力を使って特定分野の情報を引き出し国内企業を支援するのは、中国政府お決まりの行動だ。

「中国政府は優先する企業をはっきり決めている。その企業は業績を伸ばさなければならない」と、マルベノンは言う。

外国企業の技術を国内企業に「分配」

 政府が外国企業に介入し最新技術を中国企業に有利に「分配」することにグーグルが単純にうんざりしている、と見る専門家もいる。その競争相手は中国最大のネット検索企業「百度(バイドゥ)」だ。

「グーグルは中国での自分たちの存在が操られているという認識に到ったのかもしれない」と、米議会が設立した米中経済安全保障再検討委員会のラリー・ウォーツェル副委員長は言う。「グーグルはソフトウェア・コードと技術を失っている。中国政府は百度に勝たせたいと考えている」

 技術を盗んで国内企業に与えるために外国企業を中国に受け入れるのが彼らの常套手段だ、とウォーツェルは言う。「国際的な知的財産権への配慮はまったくない。一度技術を手にしたら、技術解析やコピーをして中国企業のために利用する」

 最大の問題は、政府と企業を保護する政策も法体系もないこと。増大する中国からのサイバー攻撃へのアメリカの対応は改善されてきているが、ほとんどの場合規模が小さく、しかも遅すぎる。

 米軍統合参謀本部のジェームズ・カートライト副議長らは、米政府のサイバー防衛対策をしばしば「機能していない」と指摘。米軍上層部も大量の情報が失われていることを認めている。

 オバマ政権はこの問題を何とかすると約束して政権に就いたが、状況はむしろ後退している。昨年5月にネットセキュリティ対策の報告書を発表した後、国家安全保障会議のサイバーセキュリティ担当顧問メリッサ・ハサウェイが辞任。国土安全保障省サイバーセキュリティーセンター所長のロッド・ベックストロムも昨年、国家安全保障局との縄張り争いで辞任した。オバマ政権のサイバーセキュリティを統括するコーディネーターとしてハワード・シュミットが指名されたのは昨年12月だ。

政府がサイバー攻撃に関与している証拠

 はっきりさせておくが、グーグルは中国政府を直接責めていない。一連のサイバー攻撃が「中国国内から来た」と言っているだけだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中