最新記事

コペンハーゲン会議

秘密文書で発覚、先進国の身勝手な陰謀

京都議定書の大原則を覆す「デンマーク文書」がリークされ、会議は2日目にして大ピンチ

2009年12月9日(水)15時47分
ダニエル・ストーン(ワシントン支局)

地球を守れ コペンハーゲン会議の行方を多くの人々が見守っている(12月9日、ロンドン) Suzanne Plunkett-Reuters

 12月7日、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)がデンマークのコペンハーゲンでスタートした。ところが2週間にわたる会議の2日目で、とんでもない文書の存在が明らかになった(その影響を軽微と見るか、爆弾級と見るかは人それぞれだろう)。

 12月8日に英ガーディアン紙にリークされた「デンマーク文書」がそれで、デンマークとイギリス、アメリカを含む複数の国が作成した合意草案だ。温室効果ガスを規制する権限を富裕国に移すとともに、各国の排出量削減の調整役を果たしてきた国連に代えて、コスト意識の高い世界銀行の参加を提案している。

 これに対して中小国、とりわけ大国に排出量削減の厳格な実施を求めてきた途上国は強い警戒感を示している。デンマーク文書は主要排出国が自分たちの手で、自分たちとその他の国々の温室効果ガス排出量をコントロールしようとしている証拠だというのだ。

富裕国には2倍の排出量を認める

 京都議定書は、大国に対しては温室効果ガスの排出削減の義務を課しつつ、削減能力が限定的な小国については削減義務を定めていない。しかしデンマーク文書は、この京都議定書の大原則を覆す内容になっている。

 途上国にとって何より腹立たしいのは数字の部分だ。デンマーク文書は、貧困国が2050年までに1人当たりの温室効果ガス排出量を1・44トンに制限するよう求めている。その一方で、富裕国には1人当たり2・67トンを認めるという。

 草案者らは、文書はさらなる修正を加え、多くの国の賛同を得るまで公表するつもりはなかったし、リークされた草案は最終案とはほど遠いと主張している。

 そんな弁明をしても、今のコペンハーゲンでは共感を得られそうにない。貧困国はデンマーク文書を、自分たちを出し抜く手段とみなしている。アメリカの気候専門家らも、同文書を秘密にしていたのは不誠実で不公平だと批判している。

交渉を軌道に戻せるかどうかは疑問

 交渉を正常な状態に戻せるかどうかは疑問が残るところだろう。排出量削減という緊急課題はなくなっていないから、交渉が続く可能性は高い。

 だがこれまでとの最大の違いは、約190カ国を交渉のテーブルに戻すには大国が大いに謙虚な姿勢を示す必要があることだ。自分たちのせいで交渉が中断する可能性が出てきたことから、デンマーク文書作成の中心となったアメリカなどの国々はこれまで以上の努力をしなければならないだろう。

<追記>
 アメリカのジョナサン・パーシング気候変動問題副特使は8日夜、デンマーク文書の影響は小さいとの見方を示した。「デンマーク文書は1つではない。多くのバージョンがある」。そして「(各国代表団の)仕事は交渉のテーブルで何かを提案すること」なのだから、「デンマーク文書がないほうが驚きだ」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ、大統領公邸「攻撃」の映像公開 ウクライナのねつ

ビジネス

中国、来年は積極的なマクロ政策推進 習氏表明 25

ワールド

フィンランド、海底ケーブル損傷の疑いで貨物船拿捕 

ビジネス

トランプ・メディア、株主にデジタルトークン配布へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中