最新記事

中東

イスラエル排斥論の大波紋

2009年8月25日(火)17時45分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

占領が長引けば言論統制は拡大?

 2つ目のポイントは、今回の一件によって、占領政策がイスラエルに与えるネガティブな影響が浮き彫りになったという点だ。

 イスラエル国内で強硬な意見が強まり、世論が右傾化するにつれて、反対意見をもつ人々は排除されたり、国外へ追いやられるようになるだろう。イスラエルへのあらゆる批判は、反ユダヤ主義(異教徒からの場合)か「自己嫌悪」(ユダヤ教徒からの場合)のどちらかのレッテルを貼られる。大学はますます政治色を強め、研究者は「容認可能」な範囲でしか発言しなくなるだろう。

 第3に、占領が長引けば、今回のような言論統制もますます増えるだろう。イスラエルとパレスチナの二国家共存という解決策を早急に実現しなければ、イスラエルは占領地域での「アパルトヘイト体制」の運営に行き詰まり、パレスチナ人にさらなる苦しみを課すことになる。

 そうなれば、イスラエルや諸外国にいる現状肯定派の人々は現状を維持するために今まで以上に手の込んだごまかしや弁明を必要とし、批判派に対して一段と辛らつな言葉をぶつけるようになるだろう。こうした状況は誰にとってもマイナスだが、二国家共存を探る試みが失敗に終われば、そうなるのは目に見えている。

 ちなみに、私自身はイスラエルへのボイコット運動を支持していない。どんなに穏便な形であれ集団的な制裁には賛成できないし、ゴードンと同じく、ダブルスタンダードの問題を懸念するのも理由の一つだ(イスラエルへのボイコットが許されるなら、なぜ中国やビルマへのボイコットはダメなのか)。

 それでも、私はゴードンがボイコットを支持した理由を尊重するし、彼の論説を読んでさまざまなことを考えさせられた。もしゴードンが言うように、二国間共存案を実現するにはボイコットしか手段がないとしたら──?

 人々に考えるきっかけを与えることも、研究者の大切な仕事のはずだ。


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 25/8/09. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相、あす午前11時に会見 予算の年度内成立「

ワールド

年度内に予算成立、折衷案で暫定案回避 石破首相「熟

ビジネス

ファーウェイ、24年純利益は28%減 売上高は5年

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中