最新記事

オリンピック

プーチンに学ぶ正しい五輪招致

ロシアのソチが2014年冬季五輪の招致で逆転勝利したのは、指導者の魅力のおかげだった

2009年6月25日(木)15時07分
マーク・スター(スポーツ担当)

07年7月、IOC総会で英語とフランス語で演説し、委員を魅了したプーチン大統領(当時) Daniel Leclair-Reuters

 ジョージ・W・ブッシュ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれまで、友人というよりは敵だった。今月初めにはメーン州ケネバンクポートにあるブッシュの別荘で会って親密さをアピールしたものの、辛辣な言葉の応酬を招いた見解の相違と緊張感は変わっていない。

 だがロシアとの敵対関係も、イラク戦争と同じく、ブッシュ自身に原因があるのかもしれない。プーチンは先週、2014年冬季オリンピック招致のため、グアテマラ市を訪れて英語とフランス語で演説。IOC(国際オリンピック委員会)の面々には、魅力的で信頼に値する男にみえたようだ。

 黒海に面するリゾート地のソチが下馬評を覆し、韓国の平昌とオーストリアのザルツブルクに競り勝って開催地に選ばれたのは、プーチンのおかげとされる。国の首脳が番狂わせを演出したのは2回目だ。2年前には、トニー・ブレア英首相(当時)の社交術でロンドンが12年夏季五輪を勝ち取った。

 ソチの勝利は16年夏季五輪の招致レースにどんな影響を与えるのか。国の代表としてシカゴが名乗りを上げているだけに、アメリカではその点に関心が集まっている。

 12年夏季五輪に立候補したニューヨークは、大金と長い時間をかけた招致活動の末に敗北して大恥をかいた。米オリンピック委員会のピーター・ユベロス会長も、大失態を繰り返すようなら辞退すべきだと明言している。

東京は○だがシカゴは×?

 ソチは施設の整備を今後のロシア政府からの投資で行うとしている。そんなソチが選ばれたことは、投票時点での準備の度合いが参考にならず、ますます開催地の予想がむずかしくなることを意味する。おまけに4票という今回の僅差(51対47)をみれば、些細なことで最終結果が左右されるのも明らかだ。

 確かなことは、地理的なバランスを考えれば、16年夏季五輪のモスクワ開催がほぼありえないということ。韓国の敗北は、東京には追い風になるだろう。

 ほかの要因も考慮すれば、シカゴが勝利する道のりは平坦でないこともわかる。ブッシュ外交に対する国際的非難が、有力企業家の多いIOC委員らに影響を与えることはあまりないだろうが、それでもアメリカは孤立を深めているようだ。魅力的なシカゴが開催地に選ばれるには、アメリカに対する怨恨、とくに三つの高い壁を越えなければならない。

■アトランタ五輪 96年のアトランタ夏季五輪は、多くのアメリカ人にとって遠い昔の出来事だ。実際、シカゴの招致活動は「最後の夏季五輪はずいぶん前」と強調するだろう。だが爆破テロも起きたアトランタは、IOC委員らの記憶にあるかぎり過去最悪の五輪として広く認識されている。卑しく欲まみれで、IOC上層部に恥をかかせた大会だった。

■ソルトレークシティーの収賄スキャンダル 02年のソルトレークシティー冬季五輪は、アトランタの悪い記憶を払拭する素晴らしい大会となった。だが、その招致活動はひどいものだった。

 IOCからすれば「アメリカ的な汚職」だったが、招致活動に伴う収賄疑惑により多くのIOC委員が処分された。米議会が当時のフアン・アントニオ・サマランチ会長に議会で証言をさせようとしたことで、アメリカは外国にスケープゴートを求めたとみられた。

■ドーピング 長年アメリカは、自らが中心となって東ドイツや中国などの薬物使用を非難してきた。それが誤りだったというわけではない。ただ、米スポーツ界が薬物問題の新たな震源地になるにつれ、聖人ぶって他国を批判することが不適切で偽善的だとみなされるようになった。

 大リーグのステロイド疑惑、04年アテネ五輪の男子100メートル走金メダリスト、ジャスティン・ガトリンや女子陸上のマリオン・ジョーンズらの薬物疑惑──他国を非難する前にアメリカ自身が薬物問題を解決すべきだと、世界が感じるようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中