精子バンクより、規制のないSNSやアプリでの「精子提供」を選ぶ女性たち...変質者やトラブルの危険も
THE SEARCH FOR SPERM
自分の意思だけで母親になれると知った直後の20年7月、私は膝の上にパソコンを置いて、さまざまな精子バンクのサイトを読みあさった。さらに数日かけて、各サイトが無料提供している情報と写真からドナーの特徴をまとめたリストを作成した。
無料の情報には、身長、体重、体格といった身体的特徴のほかに、目や髪の色も常に記載されていた。人種や民族に関する情報もあった。
もっと「実用的」な情報も載っていた。妊娠可能性を左右する精子の運動率、提供価格、ドナーが過去に提供した精子が妊娠につながったか、ドナー自身の子供の有無。ドナーの子供の性別が記載されているサイトもあったが、どれも私が一番気にしている問題ではなかった。
精子を買えるだけの預金はあったけれど、私にはこの「取引」に違和感があった。自分には耐えられない。こんなにも重要な人生の決断を、限られた情報だけで下すなんて......。
精子バンクのサイトでは通常、ドナーの学歴や趣味、基本的な病歴についての簡単な情報が無料で閲覧できる。ドナーの声の短い録音を、追加料金なしで聞けるサイトもある。内容は精子提供を希望した理由や、自分の人生で大切な人間関係についての話が多い。
「会えるドナー」を探して
私には、ひどく無駄な情報に感じられた。ドナー男性の本当の姿を知る役には立たない。それに、彼らは見返りに報酬を受け取っている。結局、お金が欲しいだけじゃないの? もし私の子供が成人になって接触したら、彼らは本気で向き合ってくれるのだろうか(アメリカでは成人後の子供に自分の「出自を知る権利」が認められている)。
精子バンクでドナーを探すのは、レビューのないアマゾンで買い物をするようなものだ。複数のドナーを選択し、さまざまな特徴を直接比較できるサイトは多い。アマゾンで掃除機を買うときに参考にする商品比較リストと同じように。
でも、これは日用品や電気製品の買い物よりもずっと重要な問題だ。私もドナー男性の身体的特徴を微に入り細をうがって調べまくったが、本当は髪や目の色よりもドナーの人となりのほうがずっと気になる。ジャーナリストの職業病というべきか、私は他人がやった調査を丸ごと信用することに抵抗があった。
私はドナーの男性がどんな人間かを知りたかった。赤ちゃんが欲しい気持ちは強いけれど、私にとって重要なのは、わが子が優しくて幸せな人間に育つかどうか。その意味で、精子バンクの情報は有益ではなかった。私が求めているのは、これじゃない。