元アスリートが「アカデミー賞」4部門受賞という、嘘のような本当の話
トライアスロン選手だったパターソンは大会賞金を映画化のために投じ続けた KEVIN C. COX/GETTY IMAGES FOR ITU
<高校生のときに原作を読んで感動して以来、トライアスロンで獲得した賞金を原作の版権につぎ込んで映画化。こちらも映画化されそうな実話について>
作り話はすぐにばれる。では、この話はどうだろう。
スコットランドのアスリートが、米アカデミー賞に輝いた映画の生みの親になった。彼女はトライアスロンで得た賞金を作品に投じ続けた。ライム病でなかなか試合に出られず、肩のけがを押して出場した大会もあった。
映画は昨年、ドイツで製作され、英国アカデミー賞で作品賞を含む7部門を獲得。米アカデミー賞では国際長編映画賞など4部門に輝いた。
自ら脚本も書いた元アスリートとは、レスリー・パターソン。作品はエーリヒ・マリア・レマルクによる1929年の反戦小説を下敷きにした『西部戦線異状なし』だ。
普通に言えば本作はリメーク。1930年製作の映画と、79年のテレビ映画の後だからだ。だが、過去の2作には同じ問題があった。ドイツ兵が英語で話していたのだ。パターソンは映画化権を2006年に取得、製作に16年を費やした。
本作は一様に称賛されたわけではない。一部のドイツ人批評家は原作に忠実ではないとして、この作品を嫌った。
原作は第1次大戦を戦った下級兵士の目に映った物語が基本だが、この映画には歴史や国際政治の要素が混ぜ込まれた。原作のメッセージは薄れたかもしれないが、出版からほぼ1世紀が過ぎた今、観客に新しい視点をもたらしたとも言える。
パターソン自身の物語のハイライトは15年。映画化権を更新するため、コスタリカでの大会に優勝して賞金を獲得する必要があった。ところが大会前夜に、自転車で転倒して肩を負傷。水泳では片腕(とたくさんの鎮痛剤)だけを使って泳いだ。それでも何とか彼女は勝った。
パターソンにとって最大の転機は、高校生のときに原作を読んで、愛してしまったことだ。この小説はイギリスでは必読とされるものではない。だから彼女が原作に感動しただけでなく、形を変えて次の世代に語り継ぐべきだと考えたことは奇跡とも言える。そして、彼女は夢をかなえた。
ここまで読んだ人は、みんな思うだろう。映画にうってつけのエピソードじゃないか! 問題は製作費だな......。