男に媚びる女、女を物扱いする男...『イカゲーム』は女性蔑視的ドラマ?
SLAMMED AS SEXIST
VIPの男たちがヒーロー扱いされているわけではないことも、指摘しておくべきだろう。彼らの言動は控えめに言っても不快だが、そもそも視聴者の共感を呼ぶべき人々として位置付けられていない。
さらに、VIPが踏みにじるのは女性だけでない。彼らがクッション代わりに身を預けるのは、ボディーペイントを施した全裸の女性と男性の両方だ。VIPのうちの1人は、潜入中の男性警察官の弱い立場に付け込んで欲望を満たそうとする。
「VIPはそれぞれ、彫像のような女性と男性をはべらせている。ボディーペイントによって、彼らが人間自体を物扱いしていることを表現した」と、監督のファンは話している。
ドクスにすり寄るミニョは、薄っぺらな脇役ではない。対立の元凶になる複雑な人物で、物語の進行とともに変化していく。
ほかの参加者の食べ物を奪ったり禁制品を持ち込んだり、保身のためにギャング集団に加わるミニョは、ドクスとセックスをして同盟関係を確かなものにしようとする。
この点が性差別だとみる向きもあるが、ドクスとの関係は計算ずくの行為であり、ミニョが自らの身体やセクシュアリティーの主体であることは明らか。監督のファンによれば、ミニョは「自分の体を商品として利用する」が、これも生きるか死ぬかという状況で人間が示す反応の1つだ。
ドクスに裏切られたミニョは、最終的に復讐を果たす。彼女は弱者ではなく、立ち直る力に富んだ抜け目のない人物として描かれている。
敬意に基づいた主人公とセビョクの関係
セビョクも大胆で勇敢な女性だが、ファンの間の好感度はミニョよりはるかに高い。賢く強く内向的な人物で、他人は信頼できると知った後は心優しい一面を見せる。
女性たちのうち、境遇が最も詳しく描写されているのがセビョクだ。スリとして登場した彼女は脱北者で、家族を呼び寄せるためにカネを必要としていることが判明する。
セビョクは主人公の恋愛対象にはならない。彼女とギフンの関係は相手への敬意に基づくもので、セビョクはゲーム中にギフンを助け、2人は互いを支え合う。
セビョクの死はジェンダーをめぐる固定観念の産物ではなく、幼なじみのギフンとサンウが最後に直接対決する(韓流ドラマの「お約束」だ)ための物語上の都合にすぎない。友情が試される最終ゲームの設定は、経済・社会的安定のため、何より重要なことに生き残るために、人はどこまでするかを問うものだ。