マスク着用は子どもの社会性発達を阻害する? これからは「非言語コミュニケーションスキル」に注目を
マスクが子どもの発達に与える影響
マスクで表情が分かりにくくなることは、言葉が発達途上の幼い子どもにとってより深刻な問題です。洋の東西を問わず、生まれてきた赤ちゃんは養育者の口元の動きを真似ることで言語習得の助けにしていることが分かっています。
京都大学大学院教育学研究科のチームは、養育者の口をよく見る赤ちゃんほど音声を模倣する傾向が強いことを発見しました。研究チームは「ヒトは生後直後から養育者の声だけでなく、顔に含まれる情報を巧みに利用して、言語を効果的に学習していく」とコメントしています。
米イェール大学のChild Study Center研究員、デビッド・ルコビッチ博士は、赤ちゃんが生後6ヶ月〜8ヶ月になり難語が出てくるようになると、赤ちゃんの視線が養育者の目からの口に移動することを発見しました。
ルコビッチ博士はマスクの弊害について「赤ちゃんは言葉をマスターするために相手の口を見ることに多くの時間を費やすようになる。養育者がマスクをしていると、言葉を習得するために必要な視覚情報のいくつかを見逃してしまう可能性がある」と述べています。
マスクが子どもに与える影響は言語発達だけではありません。トロント大学の応用心理学教授、カン・リー博士は、マスクを着用することで子どもの感情認識の発達が阻害される可能性を指摘しています。
「嬉しい、楽しい、悲しいなど、人間の感情的な情報の多くは顔の筋肉の動きを通して表示します。その情報がマスクによって見えないため、子どもたちは感情認識がうまくできず、周囲の人たちと信頼関係を構築する社会性の発達に問題が生じる可能性がある」とカン・リー博士は述べています。
親や教師は感情表現を強調することが重要
デューク大学の心理学助教授であるサラ・ゲイザー博士は「ほとんどの学校でマスクが義務付けられている今、教師や子どもは自分たちの感情を言葉で表現することを強調する必要がある」と言います。
「教師は自分の感情を言葉で表現すること、そして子どもたちが感じていることをもっと頻繁に質問することが大切だ。感情を言葉にすることによって子どもは相手の目から感情を読んだり、声のトーンから感情的な内容を理解する力を発達させることができる」と解説しています。
前述のルコビッチ博士は「家庭では(マスクを外した状態で)親と子どもが顔と顔を向き合わせた交流を意識することが大切だ。学校でマスクをしていても、家庭で(マスクなしの)対面の交流を増やすことで、学校での不足分を十分補うことができる」とアドバイスしています。
同じく前述のリー博士は「教師はボディーランゲージや声のトーンにもっと配慮する必要がある。声に感情を込め、目元の動きに感情を込め、ジェスチャーを大袈裟にすることが大切だ。また言葉を発するスピードを普段よりも遅くすることで子どもの音声認識を高めることができる」と述べています。